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警察日記

1955年、日活、伊藤永之助原作、井手俊郎脚本、久松静児監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

福島、会津磐梯山の麓、横宮町での話。

停留所からバスに乗り込んで来たのは、金持ちの深川慶太に嫁いで行く花嫁衣装もまぶしい花江とその父親。
父親は玉の輿の乗った娘の結婚に浮かれており、運転手にまで酒を無理強いする始末。

そんなバスの走路を妨害するようにノロノロ歩いていたのが、花江の婚礼道具を運んでいた山本岩太(伊藤雄之助)の馬車。

実は、花江の隣に住む岩太は、彼女と結婚するつもりでいたのだが、結局、振られた形になった。

到着した婿の家で酒を振舞われた岩太はヤケも手伝って泥酔、帰る途中で道に寝込んでしまうが、ちょうどそこを通りかかった見知らぬ男が落とした仏像と共に、後に警邏中の花川巡査(三國連太郎)が発見したから、事は厄介に。

ちょうど、万引き容疑で倉持巡査(殿山泰司)に尋問を受けていたバー「八千代」の女給、桃代(小田切みき)は、同じ警察署内に連れて来られた岩太と久々に再会、実は彼の事を好きだったのに…などと愁嘆場が始まる。

その頃、町では半鐘が鳴り響くものの、火事の現場に向うポンコツ消防車が何度もエンストを起こすドタバタ騒ぎ。

5人の息子を戦争で全員失って以来、少し様子がおかしくなった元校長(東野英治郎)が「空襲警報解除」を告げて廻る姿が周りの失笑を誘って、町内は一応の落ち着きを取り戻すのだった。

しかし、そんな中、下り列車の洗面所に置き去りにされていた赤ん坊しげおと小さな少女ユキ子(二木てるみ)姉弟、さらに騙されて身売りされそうになっていた貧しい農家の娘二田アヤ(岩崎加年子)を連れた老巡査吉井(森繁久彌)が署に戻ってくる。

花川巡査は、二田アヤを家に連れて帰り、病身の母親(飯田蝶子)からも反省の弁を聞き、事は一件落着と帰途に付くが、実は、彼が帰った後、もぐりの周旋屋杉田モヨ(杉村春子)がやって来て、若い警官の純情振りをアヤの母親と共にからかっていたのだった。

一方、赤ん坊と少女の引き取り手を探して、町役場、孤児収容所、保健所、民政保護委員の家など廻った吉井だったが、どこにも受取手はなく、たまたま立ち寄った割烹料亭掬水亭の女将(沢村貞子)から、赤ん坊の方だけはしばらく面倒見ても良いとの返事を貰い、吉井はユキ子を連れて、子だくさんの自宅へ帰るのだが、そこではちょうど妻が、又しても赤ん坊を出産した所だった。

ユキ子はその赤ん坊を見て、別れた弟しげるの事を思い出すのだった。

同時刻頃、倉持巡査は、万引きをした母(千石規子)子連れを尋問していた。

引揚者らしいが、亭主が出かけたきり帰って来ないのだと言う。

そんな慌ただしい警察署の中で、唯一のんきなのが署長(三島雅夫)、嫌がる若い薮田巡査(宍戸錠)相手に強引に剣道の稽古をした後、地元の酒屋の次男坊だった丸尾通産大臣(稲葉義男)が久々に帰郷するというので、その歓迎会に出かける事に…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦後、貧困に苦しんでいた時代の地方の様子を、時にユーモラスに、時に感傷的に描く文芸ものの名品。

様々な名優たちが登場しており、各々味のある演技を見せてくれるのだが、そうした名演技を超えて一番印象に焼き付く人物は、これがデビュー作となる幼女二木てるみの存在だろう。

彼女のいたいけな表情を見ているだけで、涙を禁じ得ない。
演技を超えた説得力がそこにある。

さらに、千石規子の子供として登場する少年もその一人。

母親が自分のために万引きした長靴の類いを、警察署から持主が持ち帰るのを、寂しいそうに見送る少年の眼差し。

その後、さらにカレーとラムネを無銭飲食でその少年に食べさせた母親が、再び尋問を受ける際、倉持巡査の「おいしかったかい?」と尋ねられた際の嬉しそうな笑顔。

警官のどんな励ましでも解決しない極貧の現実を背負わされているアヤも含め、いつも、そうした弱者が最大の被害者になる悲劇を雄弁に語っている。

そんな厳しい現実を目の当たりにして、自分の無力さを悟る若き巡査を演ずる三國連太郎や、ほっそりとした宍戸錠の姿が印象的な作品でもある。