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集金旅行

1957年、松竹大船、井伏鱒二原作、椎名利夫脚本、中村登監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

望岳荘というアパートの大家(中村是好)と競輪に出かけた出版社経営の独身男、旗良平(佐田啓二)は、帰宅後、独り息子の勇太(五月女殊久)から渡された置き手紙を読んだ大家から、27才も年の離れた奥さんが3号室に住んでいた病人と駆け落ちしたと聞かされる。

さらに、同情して集まって来たアパートの住人たち(桂小金次ら)の目の前で、大家さんは感情が高ぶりぽっくり死んでしまったからさあ大変。

アパートは香蘭堂の主人(十朱久雄)の借金のカタに取られているとかで、住民たちは寄り集まって今後の相談をする事になるが、調べてみたら驚いた事に、死んだ大家は香蘭堂から借りていた金を又貸しして高利貸しをやっており、その未回収金が42、3万あるという。

その金を回収すれば、独り残された勇太君の養育費の足しになるのではないかという事になるのだが、問題は誰がその借金取りの役を引き受けるかという事。

白羽の矢が当ったのが、会社が傾いて暇がありそうな旗だった。
さらに、自分も西日本方面に個人的な集金の相手がいるから同行しても良いと名乗り出たのが、お妾さんをやっていると噂されている小松千代(岡田茉莉子)。

かくして、嫌々集金旅行に行かされる事になった旗は、生意気そうな千代、さらに逃げた母親に会わせようと千代が連れて来た勇太まで同行させることになる。

岩国では、旗が名家のバカ息子松平公夫(大泉晃)から3万円を集金し、千代は地元で人格者として通っているかつてのパトロンの一人松尾(伊藤雄之助)から、言葉巧みに10万円を貰い受けるが、うまくいっていたのはこの時だけで、後はいろんな事情があって集金は思うようにはかどらない。

ひょんな事から、集金相手(市村俊幸)から見合いを勧められた千代は、変な産婦人科医(トニー谷)に付きまとわれたりてんやわんや。

ようやっと、母親が駆け落ち相手といる家にたどり着いた三人だったが、そこは想像を絶する極貧状態だった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

中国四国地方を中心とした名所旧跡が登場するロードムービーなのだが、岡田茉莉子演じるあっけらかんとして愛らしい千代のキャラクターが魅力的なので、ついつい楽しく最後まで観てしまえる、ユーモラスで良質の人情ドラマになっている。

岩国の錦帯橋、山口、萩、松山の宍道湖、徳島の阿波踊りと、美しい地方の風景と祭りがカラーで見事に映し出されており、それを観るだけでも観光旅行記分になれる。

60年代前後というのは、カラー映画が登場して来た事と、テレビ等がまだそれほど普及していなかったという事などもあるのだろう、こういう国内観光映画のようなタイプの作品が結構ある。

決して、今風の派手な仕掛けで見せたり、爆笑ものというような内容ではないが、淡々とした展開の中にも、何となくぎくしゃくした独身男女同士の掛け合いの楽しさ、地方で登場する集金相手のキャラクターの面白さなどが重なり退屈する事はない。

子供連れで母を訪ねて…となると、一見、涙涙の臭い展開になりそうな気もするのだが、この作品ではそういうジメジメした「お涙もの」に逃げようとする安易さがなく、ジーンとするシーンはあるものの、さらっと次の展開に移ってしまうから感心させられる。

全体的にカラッと爽やかなのだ。

笑わせて泣かせて、最後にはちょっとひねりがあって…と、娯楽映画の見本のような作品といえよう。

市村俊幸の妻役を演じる沢村貞子、西村晃などの個性派や、花菱アチャコら喜劇人らが各々印象的な役柄を演じている。

しかし何といっても、この作品の魅力の根源は、岡田茉莉子のキャスティングに尽きるのではないか。

とにかく、はつらつとしていて可愛らしいというしかない。