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ピッチブラック

2000年、アメリカ映画、デヴィッド・トゥーヒー脚本+監督作品。

「理屈抜きに面白い映画」に出会える幸運は、そう多くない。これは、その稀な作品の一つである。

凶暴な殺人犯や子供を含む、一般乗客を乗せた宇宙船が、事故の為、未知の惑星に不時着する。

かろうじて生き残った乗客たちは、束縛を解かれた殺人犯に、戦々恐々としながらも、この無人で、夜のい惑星に、かつて、地球人の先着隊がおり、「闇を好む謎の怪物」に滅ぼされたらしき痕跡を発見する。しかも、間の悪い事に、22年振りの「日食」が、正に起きようとしていた…。

こう書いてくると、典型的なB級SFモンスター映画でしかない。しかも、マニアが好みそうな、数々の名作へのオマージュ集成、のような印象も感じられる。

にも拘らず、冒頭部分から、観る者を惹き付けて止まないのは、緊張感を失わせない巧みな脚本と、アート感覚溢れる画面作りの成せる技と言うしかあるまい。

何やらレトロな「漂着物語」や「孤島ミステリー」を連想させる、前半部分の異国情緒漂う人間ドラマ。

妖しくも荘厳で美しい、SFマインド横溢の「日食」シーンをはさみ、後半は、漆黒の闇中での、息もつかせぬ、怪物からの脱出劇となる。その展開の見事さ。

凡百の娯楽映画であれば、後半は、人間とモンスターとの、大抵、大味な対決アクションに集約されていく
のが常であるが、この作品では、そうした定石へのアレンジも抜かりがない。

暗闇でも見える「特殊な眼」を持った人物が垣間見る「悪魔の飛び交う地獄の風景」の無気味さ、おぞま
しさ。さらに、最後の最後まで、「業」を背負った人間たちが繰り広げる葛藤ドラマに焦点が合っているた
め、大仰なアクションなどなくても、見ごたえがあるし、一見、冷酷に思えるラストも、意味深く、熱い余
韻が残るのである。

おそらく、宗教的な説話が下敷きになっているのでは…と、推測できるのだが、その原典を知らなくても、十分、現代人にも訴えかけてくる「魂の寓話」になっている所が素晴らしい。