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秘剣

1963年、東宝、五味康祐原作、木村武脚本、稲垣浩脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

戦の時代も終わった寛永10年、九州小倉、小笠原藩のとある道場。

早川典膳(市川染五郎)は赤ん坊の頃に親を亡くし、細尾長十郎(長門裕之)の母親(菅井きん)に育てられ、剣に関しては、義兄弟の長十郎以上にずば抜けた才能を持っていた男であったが、実際に人を斬る事のない型剣道などには興味を持っていないと常日頃から公言していた。

そんな中、近所で物乞いが惨殺される事件が発生する。

お目付役の矢部仙十郎(三井弘次)は、道場の門弟の仕業ではないかという噂を聞き調査を始めるが、典膳に疑いを持っている様子。

やがて、婚約者である勢以(田村奈巳)の父親が、伝説の宮本武蔵(月形龍之介)来訪の席に出席すると聞き付け、自分もぜひ同席させて欲しいと願い出るのだが、聞き入れられるはずもない。

後日、道場の師範(田崎潤)より長十郎共々師範代になってくれと請われ、嫌々引き受けた典膳は、ようやく、他の門弟たちと共に宮本武蔵と対面する事ができる。

しかし、今の時代には人を斬る剣を学ぶより、算盤勘定でも学ぶ方が良いのだと説く武蔵の話は、血気盛る若者たちには受け入れられなかった。

そんな若者の目の前で、畳を持ち上げ、縦真一文字に斬ってみせた武蔵の技を見ていた典膳は嘲笑し、自分も同じように畳を真横に切断すると、こんなものは兵法ではなくて、ただの曲芸だと豪語するのであった。

賓客、武蔵の面子をつぶされた藩の重役たちは激昂し、即刻、典膳は100日間の逼塞、勢以との婚約も破談となってしまう。

典膳はそんな藩を遁走し、奈良の山奥で一人剣の修行に打ち込みはじめるのだった。

典膳の討手に命ぜられた長十郎は、長旅の末、ようやく三輪(池内淳子)の元で世話になっていた典膳を探し当てて対面するのだが、当の典膳は、斬って来ない長十郎に対し、ようやく自分は独自の秘剣をあみ出したと言い出すのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

卓越した才能を持ちながら、その慢心さゆえに自滅してゆく若者の姿を描いている。

一見、神経質で取っ付きにくそうな風貌を持つ先代染五郎(現-松本幸四郎)に良く合った役柄だと思う。

チャンバラを中心にしたアクション物ではなく、地味な印象の作品だが、展開も面白く、ラストも強く印象に残る。

染五郎も悪くないのだが、この作品で一番インパクトがあったのは、月形龍之介演じる宮本武蔵。

有名な晩年の武蔵を描いた肖像画の雰囲気にそっくりなのだ。

存在そのものに風格があって、いかにも強そうに見える。

今まで観て来た武蔵像の中では、一番しっくり馴染んで見えた。

天膳をライバル視する島村数馬役の中谷一郎、人を食ったような老侍を演じる左卜全、無気味な浪人を演じる天本英世、どこか飄々としたお目付役を演じる三井弘次など、適材適所の役者陣がしっかり脇を固めているのも強み。

三船の良きライバルだった鶴田浩二が東宝を去った後、次の時代を支える人材として稲垣監督が育てようとした染五郎さんであったらしいが、残念ながら、すでに時代劇人気自体が衰退の時期と重なってしまった事もあり、出来は悪くないのに、興行的には奮わなかったらしく、その後の映画での活躍に結びつかなかったのが惜しまれる。

本作も、隠れた名品の一本だと思う。