TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

デルス・ウザーラ

1975年、ソ連、ウラジミール・アルセーニエフ原作、ユーリ−・ナギービン脚本、黒澤明脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1910年、一人の中年男性アルセーニエフ(ユーリ−・サローミン)が、3年前、自分の無二の親友を埋葬した森を訪れた所、そこはすでに開発されている最中で、すっかり様変わりしており、目印だった松すら見当たらず途方に暮れる所から物語は始まる。

時は遡って1902年、兵用地誌作成のため、兵隊を連れてウスリー地方の探検旅行をしていたアルセーニエフは、野宿をしていたある夜、突然、見知らぬ老人の訪問を受ける。

デルス・ウザ−ラ(マキシム・ムンスク)という漁師だという。

アルセーニエフは、森に熟知している彼に道案内をしてくれないかと依頼し、デルスはそれに従う。

旅を続ける内に、アルセーニエフは、デルスが漁師として一流の知識と技量を持っているだけではなく、自然を崇拝し、人間も動物も分け隔てなく生き物全般を尊び、無益な殺生等決してしない奥深い考えを持った人間である事に気付いていく。

また、デルスの妻子は天然痘でとうに亡くなり、今は一人で必要なだけクロテンを捕って生活しているのだという事も聞かされる。

ハンカ湖の調査に、無理をしてデルスと二人だけで出かけたアルセーニエフは、途中、道に迷い、酷寒の夜を無防備のまま迎えなければいけなくなるが、デルスの知恵と努力で一命を取り留める事ができ、それ以来、デルスを尊敬すべき無二の親友だと感じるのだった。

1907年、夏、再びウスリー地方の探検に出かけたアルセーニエフは、森の中でデルスと再会する事ができ、前回と同じように同行を依頼するのだったが、やがてデルスの身体に異変が起こりはじめていることに気付く…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

早い時期から黒澤が映画化したがっていた企画の一つで、実際昭和26年頃、明治初期の北海道を舞台に移し、三船主演予定で「蝦夷探検記」という脚本を久板栄二郎氏に書かせている。
結局、日本では無理だと眠っていたものが、ソ連からの誘いで実現したものらしい。

しかし、当初主演予定だった三船をはじめ、馴染みのスタッフたちも同行する事が出来ず、あちらのスタッフもプロというよりは、映画学校の生徒たちみたいな人だったらしく、思うようには撮れなかった部分も多々あるという。

とはいえ、さすがに時間をかけて撮られただけに、本作はそれなりに見ごたえがある。
キャスティングも、これはこれで良かったのではないかと思う。

いってしまえば、文明批評、現代人批判みたいな内容なのだが、そういう単純な言葉で片付けられない奥深い哲学を、一人の純朴な森の民に託して語らせているので嫌みがない。

観客がみんな、主人公アルセーニエフになったように、デルスの生き方、考え方に、素直に我が身を反省し、頭を垂れてしまう。

冒険譚としては、途中あたりから、やや迫力不足と感じる部分もあるが、ハンカ湖で道に迷い夕闇が迫ってくる辺りのサスペンスは秀逸。

余談だが、このシーン、ジョージ・ルーカスの「SW 帝国の逆襲」(1980)のあるシーンそっくりなのだが、ルーカスはこれをヒントにしたのではないだろうか?

月と太陽が同時に空に浮かんでいる雄大なシーンも「SW」(1977)のあるシーンを連想させるし…。

宮崎駿監督の「もののけ姫」(1997)のテーマと相通ずる所もあるように感じる。

なかなかスクリーンで観る機会のない作品だが、できれば大きな画面で、自身が大自然の中に身を置いた感覚で観てもらいたい作品である。