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太陽は呼んでいる

1963年、井上靖原作、森谷司郎脚色、須川栄三脚色+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

定期船で寝ていた青年が、久々の帰郷で親に反物を持って帰ると話している女たちの声に起き上がる。
「やっぱり、親には土産を持っていった方が良いだろうか」と女に尋ねる青年も、やはり久々の里帰りらしい。

その後、酒を酌み交わしている地元の漁師たちから話し掛けられたその青年、親方らしき老人に仕事の口はないかと聞いてみる。
反物が買えるくらいの小遣いが稼げれば良いのだという。

すぐに話はまとまり、その青年昭作(加山雄三)は、地元の網元、蓬莱組のオヤジさん(志村喬)の世話になる事になる。

招かれた家元の家には、美しい長女美代(藤山陽子)と無邪気な次女すげ(中川ゆき)がおり、昭作は一目で美代の虜になってしまう。

一方、すげの方は、すっかり昭作の魅力にとりつかれてしまうのだった。

船で寝泊まりし、真面目に漁の手伝いをする事になった昭作だったが、よそものであるだけではなく、オヤジさんの娘たちとうまくやっているらしい事が地元の漁師たちから見れば面白くない。

特に、美代と結婚するつもりの保男(名古屋章)は、昭介の小指がない事を指摘し、オヤジさんたちに注意を促すのだった。

そんな蓬莱組は近くの大勝組と、何かと漁場をめぐっての争い事をくり返していたが、ある日とうとう、荒くれ者たちを動員した大勝組が、操業している蓬莱組の漁場を直接乗っ取りに来る。

話し合いでの解決を望む穏健派のオヤジさんの考え方に一旦は従った保男たちであったが、日頃からの鬱憤を募らせて業を煮やしていた彼ら漁民たちは、その夜、果たし合いに行くといきり立つ。

すげから父親を助けてと頼まれた昭介、最初はかかわり合いになる事を渋るが、結局、出向かざるを得なくなり、世話になったオヤジさんに迷惑がかからないように、よそものである自分一人で相手の漁場に乗り込むと言い放つのであった。

だが彼は、大勝組の中に、美代の本当の恋人(山崎努)がいるという事実を知らなかった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

加山雄三には、お馴染みの「若大将」シリーズ以外に何本かシリアスな文芸ものがあるが、これはその中の一本。

加山が演じているどこか暗い過去を引きずる無口な主人公は、高倉健が演じたら似合いそうなキャラクターである。

海が似合うという点では加山にピッタリとも言えるのだが、明るく屈託のない若大将とはひと味違ったイメージで意外感もある。

美代役の藤山陽子は「若大将」シリーズにも出ているが、いつも清楚なお嬢様といった型にはまった役柄が多く、あまり演技派といったタイプの女優さんではないのだが、本作では珍しくシリアスな役柄を演じている。

さらに印象的なのは、独り片思いの心を焦がすすげ役の中川ゆき。
見覚えがない顔だったので調べてみたら、60年代の東宝作品に何本か出演している人だったようだ。
ひょっとすると、本作が彼女の代表作なのではないだろうか。

山崎努は、黒澤の「天国と地獄」(1963)の後の出演作という事になるが、最初、寺田農かと錯覚したほど顔つきが違う。

重要な役柄ではあるが、あまり印象に残るような感じではない。

どこかこすっからい漁師を演ずる名古屋章もうまい。

狭い郷里から飛び出し、夢破れた今、その郷里に舞い戻ろうとする男と、狭い郷里の人間関係に疲れ、飛び出そうと考えている女の対比の面白さ。

初めて知った作品だが、なかなかの秀作だと感じた。