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ローレライ

2005年、フジテレビジョン+東宝+関西テレビ放送+キングレコード、福井晴敏「終戦のローレライ」原作、鈴木智脚本、樋口真嗣監督作品。

本作はあくまでも「空想科学漫画」の実写版という雰囲気。

一応、太平洋戦争末期を舞台にした戦争秘話といった体裁にはなっているが、あくまでもその時代をファッションとして利用しているだけで、戦争を描いた映画ではない。

どちらかといえば、万能戦艦が登場する「海底軍艦」(1963)や、戦時下に開発された人造兵器が登場する「ミカドロイド」(1991)などに近い荒唐無稽なファンタジーである。

同盟国だったドイツから譲り受けた謎の秘密兵器で戦況の一発逆転を狙う…という辺り等、「フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)」(1965)などを連想させるほど。

もはや、観客の大半が戦後の生まれであり、かつて、日本とアメリカが戦争をしていたと言う事実さえ知らない人が増えていると言う今、「大平洋戦争」をどう描いたとしても、それを客観的に評価、判断できる人間等皆無に近いと思う。

だから、あくまでも空想娯楽活劇として割切って描こう…という作者の意図自体は正しかったと感じる。

ただし、現実の戦争の悲惨さをあえてきちんと画面上に描かなかった事が、娯楽映画としての本作の弱点となっている事も確か。

伊-507出航の意味や、途中起こる反乱の背景などが、観客に今一つ強烈に伝わって来ない分、サスペンスが弱くなってしまっているからだ。

原爆や南方戦線の悲惨さなどとセリフとイメージCGなどで描いても、一体、今の観客の何人がそれを具体的に想像できると言うのか。

「回天」などというセリフを聞いても、何人がそれを「特攻人間魚雷」だったとイメージできるのか。

本作があくまでも若者向けの空想活劇だとしても、その娯楽としての緊張感を高めるためには、そういう基礎知識を観客側にある程度具体的にイメージさせる必要最低限の説明は必要だったのではないだろうか。

おそらく、限られた予算と時間で省略してしまったのだろうが、その辺が作品としての完成度を弱めてしまっているようで惜しまれる。

CGI表現に関しては、低予算と開発途上であろう事を考慮すれば、まずまずと言ったところか(シーンによって、仕上がり具合のばらつきは感じるが)。

それでも、ティーン向けの空想活劇アニメでも観ているつもりでボーっと観る分には、それなりに楽しめるレベルと言えるのではないだろうか。

役所広司など役者陣の好演もある中、ギバちゃんだけは、いつものキャラクターにしか見えないのは、ちょっと気にならないでもなかったが…。