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鳥人

1940年、日活京都、額田六福原作、石田治脚本、丸根賛太郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ライト兄弟の飛行実験のおよそ百年も前の天明年間、備前岡山。

秋の明月が照らす川べり、二人の男がたき火を囲んでいる。

一人の浪人風の男は裸、どうやら身投げをしたところを、もう一人の町人らしき男に助けられたらしいが、助けた町人の態度は意外にも素っ気なかった。

生活苦からこの世をはかなんで川に飛び込んだ浪人の名は経堂重兵衛(大国一公)、つっけんどんな態度を取る町人は、かつて岡山で一、二を争うほどの表具師として名高かった幸吉(嵐寛寿郎)だった。

幸吉が素っ気ない態度を取るには訳があった。

今の彼は、浦上玉堂(香川良介)の絵を観て啓示を受けて以来、空を飛ぶ夢にとりつかれてしまったため、豊かだった生活は貧窮し、世間からは狂人扱いされていたからであった。

幸吉は、空を飛ぶ機械を作るために、何年も鳩の研究をしているのだという。

その犠牲となった鳩の墓にぬかづく幸吉の姿を見た重兵衛は、つい、この幸吉なる変人に興味を抱き、自分も手伝わせてくれないかと言い出す。

幸吉の家に連れていかれた重兵衛は、幸吉の女房お近(月宮乙女)、妹のお春(市川春代)、もともと表具師の弟子として雇ったものの、今や空飛ぶ機械作りの助手となってしまった音吉(岩田直二)を紹介される事になる。

みんな、本心では幸吉の夢など実現しないと思っていたのだが、文句も言わず、貧乏暮らしに耐えている様子。

そんなある日、山で最後の一匹となった鳩を飛ばして、その飛ぶ様を研究していた幸吉は、突然、銃声と共に、鳩が墜落するのを目撃する。

鳩を撃ち落としたのは、たまたま遊びで漁に来ていた、国家老日置(へき)弾正(藤川三之祐)の三男坊、龍之進(高橋正夫)と、その盟友、源三郎(沢村国太郎)であった。

死んだ鳩に駆け寄り嘆き哀しむ幸吉から、彼が空を飛ぶと言う途方もない研究をしている話を聞かされた二人。
素直に感心する源三郎に対し、もともと傲慢な龍之進の方は、後日、この研究成果を我がものにせんと、幸吉はキリシタン、邪宗門の人間だと言う悪い噂を町に広めさせはじめるのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

江戸時代に、すでに飛行実験した人間が日本にもいたという伝説を元にしたお話。

伝説の表具師、浜田幸吉という人物は、羽ばたき式のからくりを作り、橋の上から舞い降りるも、結果は敢え無く失敗…と言ったところが真実に近いようなのだが、本作では、それをふくらませて、あたかも「プロジェクトX」のようなサクセスストーリーに仕上げている。

悪役、陰謀、裏切り、思わぬ友人の出現等、娯楽映画としての体裁は整っているのだが、何せ、話のテンポが遅い。

どちらかというと、人情話風のほろりとさせる演出が目だつのだが、 ワンシーンが、舞台芝居でも観ているような緩やかさなのである。

それでも、劇中2回登場する飛行実験のシーンは、実物大の模型の他に、スクリーンプロセスや、かなり大きなスケールのミニチュアも使用しているようで、なかなか見ごたえがある。
あまり、ちゃちな感じはしない。

狂人の子として他の村人たちから相手にされず、孤立している幸吉の独り息子、幸太郎(沢村アキヲ=長門裕之)の寂し気な演技が印象的。

ちなみに、監督の丸根賛太郎といえば、後年、テレビの実写版「鉄人28号」(1960)を撮った人である。
テレビの実写版鉄人は空を飛ばなかったが、発明の夢にかける男のロマンと言う点では共通点があったのかも知れない。

ラストの、何やら、戦時中の戦闘機の映像にオーバーラップされる辺りが、本作の本音と言うか、何やら国策映画のような背景が透けて見えて、ちょっと興醒めになるところもあるが、夢を追い求める真摯な発明家を演ずるアラカンを観るだけでも価値のある、なかなかの大作になっている。