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僕たちの失敗

1962年、東宝、石川達三原作、石坂依志夫脚色、須川栄三監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

福田信太郎(市川染五郎)は、帝国大学を出、法務省に勤めるエリートコースを進んでいたが、突然、その生き方に魅力を失い、カメラ工場の一工員として働く道を選んだ変わり者だった。

彼は自信家であり、結婚に関しても独自の考え方を持っていたのでそれを実行する。

かねてより工場内で目を付けていた伊吹まさ子(桑野みゆき)に突然声をかけ、いきなり結婚しようと切り出すのだった。

彼は、さらに意外な条件を切り出す。

3年間夫婦として暮してみて、その後も結婚生活を継続するかどうかは、その時点で互いに判断しないかというのだった。

いわば、3年ごとの契約制である。

戸惑いながらも、福田の突飛なアイデアに惹かれたまさ子は承諾をする。
さらに、今度は、まさ子の方が奇抜なアイデアを出す。

互いに別々に暮す別居結婚のスタイルであった。

話を伝え聞いた同じ工員仲間の徳丸恵子(若林映子)も興味津々。

彼女も又、福田に好意を持っていたからである。

結婚といっても、互いの生き方に干渉はしないという。
つまり、結婚中の恋愛も互いに自由というのであるなら、自分も堂々と福田と付き合う事ができ、3年先は自分が福田と結婚する可能性もある訳だからだ。

かくして、古い考え方の工場長(伊藤雄之助)や福田の母親(轟夕起子)の心配をよそに、奇妙な結婚生活が始まるのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

本作に主演している市川染五郎とは、今の市川染五郎や松たか子の父親、9代目松本幸四郎の事である。

若い頃から映画にも良く出演していたが、今観ると、当時はなかり個性が強いというか、濃い風貌の持主である。

その個性的な顔だちが、本作の、どこかエキセントリックなエリート役に実にうまくマッチしている。

彼の結婚観は、新しい考え方というより、自分本位、男の側に都合の良い論理であって、男なら一度は考える幻想のように思える。

契約制度で一定期間ごとに相手を替え、新婚生活の「美味しい部分」だけを永遠に持続しようとする考え方は、一見、男女双方に魅力的に響くのだが、結婚は男女二人だけのものではない。

生まれてくる子供や親類縁者との付き合い部分などしがらみが生じてくるものでもある。

当然、福田も、その辺の事は承知しているらしく、自分なりの対処法を考えてはいたのだが、現実は彼が考える方向へは進んでいかない。

徐々に、彼は、その現実に絶望しはじめる。

最初は、魅力のある考え方だと賛同したまさ子も又、実際に暮しはじめる内に、この考え方の矛盾点にあれこれ気付きはじめる。女性にとっては、あまりメリットがないのである。

結局、彼女は、従来の結婚方式に福田を引きずり込もうとするのだが…。

福田と対称的に、従来の結婚生活に満足しながらも、不幸に巻き込まれる工員稲垣を演ずる児玉清も印象的。

その稲垣の地味な奥さんを演じているのが水野久美なので、意外な役を演じているな〜と感心していたら、後半、ちゃんとバーのホステスになるので納得した。

平気で嘘をつき、軽薄ながらも飄々と暮している工員仲間の一人、豊田役の太刀川寛も面白い。

藤木悠、塩沢とき、堺左千夫、二瓶正典など、当時のお馴染み所もちらり顔を見せている。

劇中、福田と徳丸が観にいく映画がジョン・フォードの「リバティ・バランスを射った男」(1962)。

ケネディとフルシチョフが映っているニュース映像に超満員の客でドアも閉まらない様子が、映画全盛期を実感させ、興味深い。