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斬る('62)

1962年、大映京都、柴田練三郎原作、進藤兼人脚本、三隅研次監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

冒頭、飯田藩兄弟家老安富主計(南部彰三)の命を受け、侍女、山口藤子(藤村志保)が、江戸屋敷内で就寝中の妾、若山(毛利郁子)を暗殺するシーンから始まる。

藤子は罪を問われ、長岡藩多田草司(天知茂)に斬首され果てる。

天保3年3月、小諸藩、高倉信右衛門(浅野進治郎)は、秘密裏に自宅に運ばれた赤ん坊を自分の子供として育てることにしたと、城主牧野遠江守(細川俊夫)に報告する。

やがて、時が過ぎ、立派な青年に成長したその時の赤ん坊、高倉信吾(市川雷蔵)は、父親に旅に出たいと申し出、許しを得る。

さらに3年が経過し、旅から戻った信吾は、一見、何の変化もなかったように見受けられたが、師範役として藩に招聘された庄司嘉兵衛(友田輝)との腕試しの席で、かつて見たことのない構えを見せる。

やがて「三弦の構え」と名付けられたその剣法だったが、信吾自身は「邪剣」として、めったに披露することはなかった。

そんな高倉の隣家に暮していた池辺義一郎(稲葉義男)は、息子の義十郎(浜田雄史)が、庄司との試合でぶざまな負け方をした鬱憤もあり、城内で信吾が捨て子であったことを周囲に吹聴するが、それを偶然耳にした信吾は父親に、自分の出生の秘密について詰問するが、答えは得られなかった。

さらに、城主直々に、軽はずみなうわさ話をしたことを叱責された義一郎は、もはや出世の道は絶たれたと逆上し、義十郎を引き連れ高倉家を訪れると、応対に出てきた信吾の妹、芳尾(渚まゆみ)と信右衛門を斬り付け、いずこへともなく出奔するのだった。

帰宅後、妹の死と瀕死の父親から打ち明けられた自分の出生の秘密を胸に、信吾は池辺親子を追いつめ、二人を斬る。
その後、亡き実母の墓をいまだに一人で守っていた実父との再会した信吾は、浪々の身として諸国をさまようことになる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

非業な最後を遂げた三人の女の運命を胸に、ニヒルな浪人へと変貌して行く高倉信吾のキャラクターは、後に市川雷蔵のはまり役となる眠狂四郎の原点といっても良いだろう。

画面右5分の3程が黒、左5分の2程の白の部分にぬっとあらわれる藤子の顔…といった、意表をつく冒頭のカットから、全編、緊張感溢れる美学に裏打ちされた画面構成が見事な作品である。

旅に出た信吾が出会う三人目の女、田所左代(万里昌代)が、追われる弟、主水(成田純一郎)を守らんと、素っ裸になって追っ手たちの前に立ちふさがり、「情けを知れ!」と叫ぶシーンは強烈な印象が残る。

万里昌代は、天知茂同様、もともと新東宝の「海女シリーズ」などで知られた女優。
この作品は、そんな彼女にとっては代表作の一本といって良いかも知れない。

もちろん、主役の市川雷蔵にとっても、代表作の一本であることはいうまでもない。

悲劇と剣劇と美学が一体化した名作。