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悲しき口笛

1949年、松竹大船、竹田敏彦原作、清島長利脚本、家城巳代治監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

横浜にふらりやってきた引揚者らしき青年、田中健三(原保美)が、煙草拾いの浮浪児に「ミツコという女の子を知らないか」と尋ねている。

一方、港にたむろしている日雇い労働者の松ちゃん(大坂志郎)らからチビ助と呼ばれ、可愛がられている子供(美空ひばり)がいた。
その子供は、戦争に行ったきり帰って来ない音楽家だった兄が昔作った「悲しき口笛」という曲を、皆の前で歌おうとした所を、警官に邪魔されてしまう。

バイオリンの名手ながらプライドが高く、仕事にありつけない芸術家気質の父親勝川修(菅井一郎)の娘、京子(津島恵子)は、勤めているビヤホールで、無銭飲食をして従業員から袋叩きにあっている健三を見つける。

マスターに助力を頼むが、その話をカウンターで聞いていた客の吉村(徳大寺伸)が、その金を払うと言い出し、表で酔いつぶれていた健三を車に乗せてどこかに連れて行く。

流しの仕事がうまくいかなかった父親と共に帰宅途中の京子は、空き地の土管の中で寝ているチビ助を発見、哀れに思って、自宅に連れて行き、それから一緒に暮すことにする。

ミツコとして幸せに暮しはじめたチビ助だったが、ある日、街頭で酔っぱらいに誘われるまま、メチルアルコールを飲んでしまった勝川は、自宅に帰り着くなり具合が悪くなり、そのまま失明してしまう。

その薬代に困っていた京子に声をかけてくれたのは、ビアホールのマスターだった。

何でも、常連客の吉村が仕事の働き手を探しているという。
ついては、その手付け金として多額の札束を握らされる京子。

しかし、その仕事先の船に出向いた京子を待っていたのは、密輸の手伝いというとんでもないものだった。
逃げようとする京子は、無理矢理、船内に閉じ込められるのだが、その仲間の一人に、あの田中健三の姿があった。

健三は、京子の姿を見て、いつか、自分をかばってくれたビアホールの女給と知り、彼女を助け出そうとするのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

天才少女歌手美空ひばり主演のすれ違いドラマ。

携帯が普及した現在では、すでに成立しなくなったようにも思える「すれ違いドラマ」だが、終戦直後のこの作品の時代では、十分あり得た話だろう。

それにしても、探し求める相手がすぐ近くにいるのに互いに気付かなかったり、すれ違ってばかりをくり返している展開や、わざと事態を悪化させるようにしむけているとしか思えないヒロインの軽薄に見える行動は、さすがに今観ると、滑稽に感じないでもない。

当時は、こういうわざとらしい展開が、一つの娯楽パターンだったのだろう。

本作でのひばりは、冒頭、男の子と間違えられるような、胸をはだけた上っ張りとズボンという姿で登場するが、それが別に気にならないほどのまだ完全な子供(当時12才)。

劇中で、自分のことを「天才」と勝川から誉められたとはしゃいでみせるひばりだが、歌と演技は、確かに、タダモノではない巧さ。

正直な所、可愛らしい美少女というタイプではないのだが、その才能には、この時点でもすでに、大人でも近づき難い迫力がある。

彼女の兄を演ずる原保美も若々しい二枚目振りを発揮している。

その兄の友人、山口として神田隆が登場、後年の悪役イメージとは違う、爽やかな好青年を演じているのも見所。

港、悪漢、貧しい労働者、酒場、薄幸の美女、不遇な芸術家…と、かなり通俗味の強い要素でまとめた作品だが、天才少女時代のひばりを確認できる貴重な作品である。