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銀嶺の王者

1960年、松竹、椎名利夫脚本、番匠義彰監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

オーストリアの雪山、友人たちとスキーを楽しんんでいたオリンピック三種目金メダリスト、トニー・シュナイダー(トニー・ザイラー)は、突然の雪崩に襲われた友人たちを目撃する。

その事故に責任を感じた彼は、友人ハンスや母に別れを告げ、旅に出ることにする。

日本行きの船の臨時雇いとして乗り込んだシュナイダーは、コックの小谷(南原宏治)と意気投合し、彼の郷里に来るよう勧められる。

東京見物の後、スポーツ用品店で働く、同じ郷里出身の娘、青木春江(鰐淵晴子)と、彼のボーイフレンドである立東大学の太田滋(石浜朗)に出会った小谷は、二人にシュレイダーをトニー・ベートーベンという偽名で紹介する。シュレイダーが身分を隠すよう願ったからだった。

やがて、郷里の信州に到着した小谷とトニーは、小谷の妹で、小学校の教師をしている八重子(富士栄清子)に出迎えられるが、突然どこからともなく飛んできた雪玉が、トニーの額に命中する。

どうやら、両親がなく、祖母(浦辺粂子)と二人暮しで、八重子を母親のように慕っている善吉(馬場勤)という少年が、八重子と握手したトニーに嫉妬しての仕業らしい。

彼は、その後もトニーに対し、なかなか心を開こうとはしなかった。

春江の父、青木六造(三井弘次)の口利きもあり、雪山のパトロール隊員として働きはじめたトニーだったが、狭い村のことでもあり、地元、示現山長谷寺の住職(笠智衆)の娘でもある八重子とトニーに関する興味本位の噂が、村中に広まりはじめる。

そんな村に帰ってきたのが、春江、滋とその仲間の女学生たち。

春江は、その噂話を知ると、自分もトニーのことが好きだったこともあり、ちょっと心を曇らせながらも、表面上は明るく、八重子とトニーとの仲を取り持とうとし始める。

しかし、その彼女の態度が、今度は、滋の心に波風をたてることになる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

1956年のイタリア、コルチナ・ダンぺッツォ冬季オリンピックで史上初の三冠王を獲得して以来、一躍時代の寵児となった、アルペンスキーの名手、トニー・ザイラーを主役にした本格的スキー映画。

ザイラーは、オリンピックの2年後からプロ転向して、「白銀は招くよ」をはじめ、映画にも何本か出演している。

そのザイラーは、ハリウッドでの映画出演後、旅行で訪れた日本をよほど気に入ったのか、何度も来日を果たしていたのが、この作品を作るきっかけとなったらしい。

内容は、前半がプロスポーツマンが出演する映画の定番ともいうべき子供との出会いパターン、後半は若者向け恋愛映画を意識したような三角関係エピソードが展開する。

ザイラーは甘いマスクの持主でもあり、演技の素人とは思えないほど、巧く役柄を演じている。

この映画は、海外配給も意識して作られているようで、樹氷の美しい風景や日本情緒を強調するような描き方にもなっているし、キャメラマンに外国人も参加しているせいか、全体的に陰影が濃い外国映画を観ているような画調になっている。

さらに、若き鰐淵晴子のアイドル映画のような要素も入っている。

劇中のクリスマスパーティの会場で、ヴァイオリンを演奏したり、後半、日本舞踊を披露したりする鰐淵晴子は、当時、ヴァイオリンの天才少女といわれていただけあって、その愛らしさとヴァオリンテクニックはずば抜けている。

さらに、東大出身の南原宏治と母親がドイツ人の鰐淵晴子両名は、流暢なドイツ語でトニーと会話しており、これにもちょっと驚かされる。

滋に同行して村へやってくる女友達の一人で、甘ったれた感じのちょっと安っぽい女マリを演じているのは芳村真理である。

本格的に雪山ロケをした画面は迫力があり、ちょっと、いつもの松竹映画のイメージとは違った、あたかも、東宝の「若大将シリーズ」でも観ているような爽快感がある。

ちなみに、主役のトニー・ザイラーは「アルプスの若大将」(1966)で、若大将、加山雄三ともちらり共演している。

ドラマとしても、なかなか巧くまとまっているのだが、何よりも、トニー・ザイラー本人のスキーテクニックは圧巻で、その勇姿を観ることができるだけでも、この作品の価値はあるように思える。