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ふるさと

1983年、平方浩介「ジイと山のコボたち」原作、神山征二郎監督脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

岐阜県徳山村、ここにダム建設の話が始まったのは昭和32年の事であった。

以来、村の住民たちの中には、保証金をもらって村を出ていく人たちが少しづつ出始めていた。

そんな保証金なんか、一生の当てにはならないと、建設現場で夫婦揃って働いている伝六(長門裕之)と花(樫山文枝)は、年老いてボケはじめた伝六の父親伝三(加藤嘉)と同居していた。

伝三は、この春先に亡くなった老妻ふくの事を、まだ生きていると信じ込んでいる様子で、他にも、奇矯な行動、言動で、疲れて帰宅する伝六夫婦を悩ませていたのであった。

それでも、なんとか義父を心配し相手になろうとする花とは違い、息子の伝六の方は、業を煮やして、庭先にプレハブの小屋を建て、「隠居部屋」と称して伝三をそこに移らせることにする。

母屋には鍵をかけられてしまい、昼間は入れなくなった伝三は、ある日、川で泳いでいる小学生の群れに近づく。

そんな伝三が、昔、あまご釣りの名人だったとの話を聞いていた隣に住む小学生、千太郎(浅井晋)は、好奇心から、伝三に近づき、あまご釣りを教えてくれと頼むのだった。

不思議なことに、千太郎と一緒に釣りで出かけるようになった伝三の言動が少しづつ変化を見せ始める。
ボケが回復しているのだ。
事情を知らない伝六夫婦は、首をかしげることになる。

千太郎の夏休みも後10日を残すのみとなったある日、伝六は、大きなあまごがいるという長者ケ淵に翌朝行かないかと千太郎に誘いに来る。

しかし、翌朝はあいにくの雨。

その後、又、伝三のボケ症状は進行し、伝六は彼を隠居部屋に閉じ込めて、外へ出られないようにしてしまう。

しかし、その待遇に怒った伝三は、ガラスサッシを破壊し外に出ると、滅茶滅茶に小屋を破壊し始める。

それを見て、驚いた千太郎は、伝三をなだめて、窓の応急修理を済ませた後、以前約束した、長者ケ淵に今から行こうと言い出す…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

いわゆる「少年と老人」の心の触れ合いを描いた物語である。

それに、痴呆老人を抱える家庭の苦悩、故郷を失う人々の悲哀などの要素が加わる。

「八甲田山」の時、加藤嘉と出会った神山監督が、一切、脚本のセリフを途中で変更しないと言う条件付きで、出演承諾させた作品だと言う。

すでに高齢で、セリフ覚えも困難になっていた時期のこととはいえ、加藤嘉の作品にかける真剣さが感じられる。

当時、ソビエトの映画祭で本作を上映した際、この主役の老人は、本当の痴呆なのかと現地の記者から質問されたと言うほど、その演技は迫真的。

彼が画面に登場しただけで、「砂の器」などを何度も観ているこちらとしては、つい涙腺が弛んでしまうほどなのだが、後半、彼が倒れ、自分の過去を回想するシーンが又泣かせる。

若い頃の彼を演じているのが篠田三郎、若きその妻を演じているのが岡田奈々なのだが、その美男美女振りが、否応ない時の流れを感じさせ、胸に突き刺さるのだ。

いつもは、父親のボケ振りに悪態をついていた長男伝六の後半の演技も泣かせる。

余談だが、伝六の妻、花を演じている樫山文枝の起用の理由は、彼女がかつてNHK『おはなはん』で有名だったからだろうか?こちらも、好演している。

地味な作品ながら、永く心にしみ入る感動編といえよう。