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荒木又衛門 決闘鍵屋の辻

1952年、東宝、黒澤明脚本、森一生監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

冒頭、舞台化粧のような濃いメイクを施した荒木又衛門(三船敏郎)が、宿敵、河合又五郎(千秋実)とそれを助太刀するかつての盟友河合甚左衛門(志村喬)ら36人を次々と倒して行く様が、「これは講談師が、より話を面白くするために誇張した話である。史実によれば、又衛門は二人しか斬っていない」と解説が入る。

続いて画面は、現代の(撮影時)の伊賀上野、鍵屋の辻周辺の状況を紹介する。

そして、画面は寛永11年11月7日にオーバーラップして行く。

寒い朝、茶店の支度を始めていた鍵屋の主人(高堂国典)は、突然店に入ってきた見知らぬ4人の侍の姿に驚く。

5年前、弟を河合又五郎に殺害されて、その仇討ちの機会を待ち受けていた渡邊数馬(片山明彦)と、彼を助成する義兄、荒木又衛門、そして、その従者の武右衛門(小川虎之助)と六助改め孫右衛門(加東大介)であった。

彼ら4人は、長い年月をかけ、宿敵の同行を秘かに探っており、本日、この鍵屋の辻に宿敵一行が通ることは、すでに調べあげていたのである。

彼らは、運命の時を待つ間、各人、これまでのいきさつを思い返していた。

特に、盟友の仲でありながら、互いの立場の違いから、敵味方になってしまった甚左衛門を思う、又衛門の心中は複雑であった。

緊張のあまり、平常心を失いつつある他の三人を叱咤激励しながら、ついに、又衛門ら四人は、河合又五郎、彼の大阪に住む妹婿虎屋(山田禅二)、河合甚左衛門、そして、槍の名人、櫻井半兵衛(徳大寺伸)ら一行とあいまみえることになる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「忠臣蔵」「曽我兄弟」と並び、日本三大仇討ち話とされる「鍵屋の辻」のエピソードを、史実に忠実にしながらも、サスペンスフルに描いた作品。

全体的に、実際の仇討ちとはこうであったのだろう、と推測されるようなリアルな作りになっている。

劇中でも洩らされるが、四人とも、真剣を抜くのは初めてであり、当然、怖い。

そういう異常な状況の侍に入り込まれた鍵屋の連中も怖い。

みんな震えている。顔色もなくしている。

それが、本当にリアルな描写なのかどうかは、侍の時代を知らないものにとってはわからないが、芝居気たっぷりの時代劇を見慣れていた公開当時の観客には、新鮮に写ったに違いない。

さすがに、主人公たる三船だけは凛々しく表現されているが、その他の人物たちは、全て、臆病そうに描かれている。この辺は、脚本の黒澤の感覚か?

回想シーンが、ある音によって、現実に戻ってくる辺りの演出もちょっと面白い。

大作というほどのスケール感はないのだが、決闘の瞬間に近づくにつれ、画面全体の緊張感が高まっていく所は、観る者もグイグイ引き付けるものがある。

新解釈ものというか、異色作というタイプの作り方なので、 終盤、すかっとした爽快感のような類いの感情は湧きにくいが、それでも、充分見ごたえ感はある。

時代劇ファンには必見の一本だと思う。