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エノケンの森の石松

1939年、東宝映画、和田五雄原作、小林正脚本、中川信夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

清水の次郎長から金比羅代参を頼まれた石松が、帰路、都鳥の吉兵衛にだまし討ちされるまでのお馴染み(?)のストーリーをエノケンが演じる1時間足らずの小品。 ただし、見受山の鎌太郎のシーンは、欠落しているような印象があるので、本来は、もう少し長かったのかも知れない。

戦前から戦中にかけての東宝の会社クレジットには色々なバージョンがあるのだが、本作のクレジットは現在のクレジットから、周囲に拡がる虹色の光芒を抜いた感じ。

広沢虎造の浪花節で話は始まる。(この後も、随所随所で虎造の口演が入る)

次郎長(鳥羽陽之助)に呼ばれた石松(榎本健一)は、讃岐の金比羅に、刀と50両の金を奉納しに行くように頼まれる。
石松には、道中の小遣いとして、さらに30両持たせるという。

おっちょこちょいの石松は後先聞かずに快諾しかけるが、それを見ていた次郎長、条件を切り出す。

酒乱の癖のある石松に、行き帰り3ヶ月はかかる道中の間、一切酒は飲むなというのである。

それを聞いて、石松はとたんに態度を硬化させる。
酒が飲めるからヤクザ稼業をやっているようなものなのに、それを禁止されたのでは生きている意味がない、他の甘党の人間でも代わりに行かせろとごねる始末。

しかし、仲間からの入れ知恵で「嘘も方便」という事を知った石松は、取りあえず、次郎長の言い付けを守ると嘘をつき、旅に出る事になる。

途中で、恋人である茶店のお夢(宏川光子)と別れを惜しみ、金比羅へ向った石松は、無事何ごともなく奉納を済ませるのだった。

さて、帰りの船の中、石松は、東海道一の大親分は誰かという話をしていた江戸からの旅人らしき男、留公(柳家金語楼)を呼び寄せ、お馴染みの「江戸っ子だってね〜」「神田の生まれよ」というエピソードを繰り広げる。

やがて、見受山の鎌太郎(北村武夫)から100両という香典を受け取った石松、幼い頃より兄弟分関係だった小松村の七五郎(柳田貞一)の家による途中で、都鳥の吉兵衛(小杉嘉男)に、その金を見せたばかりに、欲を出した吉兵衛に足留めをされる事になる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ストーリーそのものは定番ものだけに、どう、エノケン映画らしいコメディネタをちりばめているかという所が見所。

冒頭の次郎長との掛け合いのシーンや、代参の帰りの船の中のドタバタシーンが特に面白い。
まだ若いエノケン演じる石松は身体も良く動いているし、 おっちょこちょいで短気な石松のキャラクターにぴったり。

なかなか自分の名前を思い出さない留公にじれて、身投げしてやると騒ぎだし、船中を走り回る内に、いつしか身体に巻き付いた帆綱に引っ張り上げられるシーン等、巧妙な編集でテンポを出している。

後半は、結末が観客にも分かっているだけに、笑いには繋げにくいと思えるのだが、それでも、吉兵衛に酒を無理強いされた石松が水を欲しがり、つい、手近にあった金魚鉢の水を飲んでしまった後、少し時間が経ってから金魚を吐き出す等という(人間ポンプ?)ギャグ、さらに、吉兵衛に斬られ、瀕死の態で七五郎と女房のお民(竹久千恵子)の家にたどり着いた石松が、七五郎から押し入れの中に隠れろと押し込まれ、隠れるのは嫌だと何度もごねるシーンなどは面白い。

ラスト、「親分、すみません!ちょっと死んで、バカを直してきます…」という石松の独白は、おかしいような哀しいような、独特の余韻が残る。