1953年、新東宝、サトウ・ハチロー原作、八住利雄脚本、斉藤寅次郎監督作品。
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崖の上に建つ裕福な朝比奈家の邸宅では、養子の主人(花菱アチャコ)が傲慢な女房茂子(初音礼子)の尻に引かれて、書生同然の生活を強いられていた。
対称的に、その崖下に建つ貧乏アパート「白百合荘」には様々な人々が仲良く暮していた。
中国に出征したまま帰らぬ夫を八年間も待ち続けている田所ゆき(清川虹子)と一人娘のみつ子(打田典子)。
そのゆきが皿洗いとして勤めているキャバレーVANのボーイで、他人のラブレターの代筆をアルバイトとしているズンさん(伴淳三郎)。
今日も、依頼人の大学生、朝比奈家の長男壮太郎(木戸新太郎)のために、熱い文章をしたためていた。
ズンさん、自分が代筆してやっているその壮太郎の恋のお相手が、自分が秘かに恋している花売りのアルバイト娘厚子(南寿美子)であるなどとは知る由もない。
その壮太郎から金を借りていたのが、このアパートに住む歌好きの大学生坂上義夫(田端義夫)。
その隣の部屋では、小学校の教諭をしている土井一八(古川緑波)が、大学生の息子浩一(高島忠夫)から、恋の悩みを相談されていた。
何と、互いに好きあっている朝比奈家の長女、千春(星美智子)と結婚したいというのであった。
しかし当の朝比奈家では、茂子が独断で、自らが投資しているキャバレーVANの支配人金原(益田喜頓)の弟、文吉(堺駿二)と千春を結婚させる話を進めていた。
実は、金原は、ギャングを雇って、朝比奈家を食い物にしようとしていたのだが、傲慢で世間知らずな茂子にそんな事を見抜けるはずもなかった。
ギャング団の中には、すでに帰国を果たしていたものの、財産の入ったリュックを盗まれてしまったがために、妻子の元に帰るに帰れず、そのままズルズルと悪の道にはまり込んでいた田所(田中春夫)の姿があった。
彼はそんな境遇から何とか足を洗おうと逃走を計るのだが、そこでばったり出会ったのが、ズンさんの兄で、靴磨きをしている金さん(柳家金語楼)だった。
皮肉な事に、金さんは、田所の女房ゆきに惚れ込み、根気良く求婚していた男なのであった…。
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朝比奈家、貧乏アパートの住民、そしてキャバレーVANの関係者、同じ大学の級友たちが複雑にからみ合うコメディ。
学生ながら高利貸しをしている荘太郎は、昭和24年ごろ評判になった「光クラブ事件」の影響がうかがわれる。
キャバレーの名前となっているVANという名称は、ひょっとすると、1951年に大阪に誕生したVANジャケットから来ているのか?
復員兵を絡めた夫婦と親子愛の物語等、時代を感じさせる要素も興味深い。
興味深いといえば、バタやんこと田端義夫。
この頃から「オッス!」というお馴染みの挨拶をしていた事を初めて知った。
劇中、朝比奈家の女中、おふくを演じている歌手の泉友子と伴淳が唄う「あなたがアジャーで、私がパーよ」という主題歌や、戦闘中の効果音に乗せてビール瓶で頭を殴る乱闘コントなどが楽しい。
最後の方に、トニー谷がゲスト的に出演しており、当時の人気コメディアン総登場といった趣なのだが、本作で一番おいしい役と思えるのは、亭主の復権を果たす花菱アチャコ。
タイトルにもなっている流行ギャグの生みの親で、主役であるはずの伴淳は、登場場面が多い割に意外と面白くない。
部分的に、斉藤監督お得意の愉快な場面もあるのだが、全体的としては人情話に笑いが負けてしまった感じで、コメディとしては今一つ…という感じである。
