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下町の太陽

1963年、松竹大船、不破三雄+熊谷勲脚本、山田洋次脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

銀座に本社がある石鹸メーカー「オリエンタル」の女工、寺島町子(倍賞千恵子)は、同じ会社に勤める毛利道男(早川保)と付き合っていた。

今日も、銀座でデートして、近々、道男が本社勤務の試験を受ける事を話し合っていた。
互いに、貧しい今の生活から抜け出す将来を夢観ていたのである。

隅田川を渡った工場が立ち並ぶ下町に住む町子は、母を亡くした父(藤原鎌足)と、祖母とめ(武智豊子)、大学受験勉強まっただ中の長男(鈴木寿雄)、そして、最近ちょっと問題行動が目立って来た弟の健二(柳沢譲二)らと一緒に暮していた。

ある日、その健二が、仲間たちと一緒に、模型店から列車模型を盗んだとして警察に連行されたと知り、慌てて引き取りに出かける。

別の日には、電車の中で不良じみた若者たちから目をつけられ、その中の北良介(勝呂誉)という青年から付き合いを迫られ、逃げ帰って来た町子であった。

何でも、健二がその不良たちと付き合っているというのだ。

しかし、不良と見えたのは誤解で、その若者たちは、同じ下町の鉄工所で働く真面目な勤労青年たちであった事を、町子は後日知る。

その頃、幸せな結婚をしたと思われた元同僚の住まいを訪れた町子は、結婚生活が自分が考えているものとは違う現実を観る。

さらに、転勤試験を受けた道男が、次点で不合格となった途端、別人のように弱音をはき、嫌な一面を見せ始める事に戸惑うのだった。

一方、嫌な性格の同僚ながら、要領の良さで転勤試験に合格した金子(待田京介)は、子供を交通事故で失って以来、精神に異常をきたした老人「ピッピの源さん(東野英治郎)」を車で轢いてしまう。

その事件で、再び、自分にチャンスがめぐって来た事を知った道男は、現金にも、喜び勇んで町子に求婚するのだが、町子の方は、返事をためらう…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

山田洋次監督の実質的長篇デビュー作。
倍賞千恵子が唄ってヒットした「下町の太陽」を元にした便乗映画とも言える。

後年の「男はつらいよ」に繋がる要素が、すでに散見できる。

まずは、冒頭、隅田川の河川敷沿いの土手を、主題歌「下町の太陽」を唄いながら帰宅する町子の姿は、江戸川の土手を帰宅する寅さんに主題歌が重なる「男はつらいよ」のタイトル部分とそっくりである。(ただし、本作のタイトル部分は別の絵柄)

さらに、町子が勤めている会社の名前は「オリエンタル」。
「男はつらいよ」でさくらが勤めていたとされる会社名と同じである。

さらに、町子が、一見、良縁に思われる結婚話を断わって、貧しくとも誠実そうな青年の方に心引かれる事。
これも、さくらのエピソードと似ている。

京介の同僚、鈴木左衛門に石川進、町子の家の近所の住民たちに、左卜全、菅井きん、ダンスパーティが行われているジャズ喫茶の歌手として青山ミチなどが出演している。

貧しい境遇の人たちに暖かい眼差しを送る監督の目線は今と変わらないが、公開当時は、観客側も同じように皆貧しかったため、今よりは遥かに強い共感を持って歓迎されたのだろう。

貧しさの中で、人間の本当の幸せとは何なのか、愛とは何なのか、結婚とは何なのかを真剣に考える町子。

金、金、金の欲望、人を蹴落としても出世して楽な生活を送りたいと願う小市民的な発想、そうした現実に素朴な疑問を感じる町子。

世の中全般は、この頃より、一見豊かになったように見える現代だが、町子が感ずる疑問は今も変わっていないように思える。

今の私たちは、この時代よりどれだけ豊かになったといえるのだろうか。