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馬鹿まるだし

1964年、藤原審爾原作、加藤泰脚本、山田洋次脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和24年、シベリア帰りの松本安五郎(ハナ肇)という兵隊服姿の男が豊浦の浄念寺に現れたので、寺の住職(花澤徳衛)は本堂に一晩泊めてやる事にする。

女房(高橋とよ)は近所の寺荒らしではないかと警戒するが、出征したまま行方が知れない長男の嫁夏子(桑野みゆき)や次男坊の清十郎は、悪い人とも思えないという。

偶然にも、その夜、本堂に忍んで来た泥棒(渡辺篤)を捕まえた安五郎は、その手柄と、シベリアで出征した菅原清念という長男を知っているような事をついいってしまったがために、すっかり、寺の家族の信任を得、それからは寺男として、しばらく働くようになる。

そんな豊浦の町に、ある時、芝居小屋が立ち、「東京ターザン」と異名を持つ怪力男の見世物が人気を得るのだが、主水屋(三井弘次)という町会長の家の娘睦子が、その男と駆け落ち覚悟で小屋にろう城してしまうという事件が起こる。

睦子は日之出巡査(長門勇)の説得も聞かず、事件は膠着状態という噂を聞いた安五郎は、義侠心に駆られ、日本刀を寺から持ち出すと、芝居小屋へ殴り込みに行き、ドタバタの末、あっさり事件は解決してしまう。

その事件の噂は、尾ひれがついてたちまち町中に轟き、安五郎の名は一躍町の名士となる。

やがて、その噂を慕って、榎本八郎(犬塚弘)というヤクザものが、主水屋の計らいで独り住まいできるようになった安五郎の家を訪れてき、子分として居着いてしまうようになる。

さらに、東京に本社がある製缶工場の労働組合がストライキを起こす騒動が発生、組合員の一人、伍助(桜井センリ)が、高い煙突の上でろう城を始める煙突男騒ぎに発展する。

これまた、警察には手が出せず、業を煮やした主水屋ら町会議員たちは、安五郎に泣きつき、お人好しの安五郎は、またまたドタバタの末、煙突男を無事降ろしただけではなく、本社からやって来た会長(小沢栄太郎)にも気に入られ、賃金アップはあっさり承認、組合員たちからも感謝される事になる。

こうして、すっかり親分気分になって行く安五郎であったが、町にかかった「無法松の一生」の芝居を観てすっかり感動してしまう。

実は、無法松の姿に、夏子に秘かな恋心を抱いている自分を重ねていたのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

人におだてられると、後先考えず何でもやってしまう、単細胞の主人公が巻き起こす騒動を描く作品だが、恋心を抱く女性に対しては、従順なだけで、何の告白も出来ない不器用な男というキャラクターは、同じくハナ肇が妹思いの兄を演ずる時代劇「運がよけりゃ」(1966)を経て、後の「男はつらいよ」(1969)のフーテンの寅へと受け継がれて行く。

つまり、この作品を観ていると、フーテンの寅の原型ともいうべきキャラクターは、名作「無法松の一生」の松五郎なんだという事に気付かされる。

親切にしてもらった女性に恋心は抱くものの、身分の違いから、それをおくびにも出せない。
ひたすら、尽くし抜くだけで終わる男の哀れな姿は、確かに共通している。

興味深い事に、本作には、寅次郎そっくりの姿形で、渥美清当人も登場している。

安五郎に、女房(桜京美)の浮気相手宮さん(藤山寛美)を懲らしめてくれと酔った勢いで頼みに来る、焼き餅焼きの万やんの役である。

さらに、クレージーの面々も総登場している。

小さな町の中だけの出来事であるが、それなりに予算もかけて見せ場も作り出しており、なかなか見ごたえがある作品に仕上がっている。