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すて猫トラちゃん

1947年、日本動画+東宝教育映画部、佐々木富美男脚本、政岡憲三演出作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

お母さん猫が、三人の子猫(女の子二人と男の子一人)を連れてお散歩の途中、すて猫らしき子猫トラちゃんを見つける。
お母さん猫は、持っていたミルクをトラちゃんに飲ませようとするが、女の子猫のミケちゃんは、自分のミルクが取られるのを嫌がる。

お母さん猫は、そのトラちゃんを家に連れてきて一緒に育てる事になるが、ミケちゃんはそれが気に入らない様子。

大好きなお母さん猫が、新顔のトラちゃんばかり可愛がっているように見えるからだ。

ある夜、すねたミケちゃんは、寝室から抜け出し、そのまま遠くへ歩き出す。

朝になって、ミケちゃんがいなくなった事に気付いたお母さん猫は、家の回りを探すが、どこにも姿はない。

トラちゃんは、自分がミケちゃんに嫌われている事を知っていたので、ミルク瓶を持って、ミケちゃんを一人探しに出かける。

途中、ミケちゃんを見つけるが、怖そうな犬に出会ったり、突然の雨に出会ったりしても、ミケちゃんの機嫌は直らない。

それを何とかなだめすかして帰る途中、ミケちゃんは川に落ちて流されてしまう。

トラちゃんは、何とか、ミケちゃんを助けようとするが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「日本アニメーションの父」とも呼ばれる政岡憲三が、戦後の浮浪児の姿にヒントを得て作ったとされるアニメーション作品。

とにかく愛らしい…の一言。

トラちゃんとミケちゃんの姿は、人間の2、3才児くらいの仕種そのままで、服部正作曲の明るい歌も加わって、何ともいえない微笑ましい子供の世界を描き出している。

トラちゃんシリーズは、この後、作画に森康二、撮影に藪下泰司を加えた「トラちゃんと花嫁」(1948)、「トラちゃんのカンカン虫」(1950)と続くが、本作が一番出来が良いと感じる。

甘えたい盛りのミケちゃんの、トラちゃんへ対する子供らしい嫉妬心が、見事に描き出されているからだ。
トラちゃんの方も、自分が決して歓迎されていない事に気付いている哀れさ。

その両者が、子供にとっては大きな冒険ともいうべき小さな旅を経験する事で、いつしか、感情の垣根が取れて行くという物語は、シンプルながら、大人が観ても何とも心打たれるものがある。

「トラちゃんと花嫁」は、お姉さんが結婚式をあげる直前に、おじいさんから手紙が届き、自分が到着するまで式は挙げるなというので、結婚に反対されるとばかり思い込んだ大人たちが、家で留守番をする事になったトラちゃんとミケちゃんに、おじいさんの足止めを依頼するというもの。

「トラちゃんのカンカン虫」は、貨物船のペンキ塗りをしていたトラちゃん、ミケちゃんコンビが、花火を積み込む船員が、うっかり、火の付いた煙草を花火の箱に投げてしまったのに気付き、何とか爆発を食い止めようとするもの。

2本とも楽しい作品だが、最初の作品にくらべると、徐々に情感が薄れ、ドタバタ調になっていく感じ。

特に「トラちゃんのカンカン虫」は、キャラクターの顔だちもすっかり変わってしまい、ちょっと大人びたというか、愛らしさという点では後退した印象になってしまっている。

今回、有名な「くもとちゅうりっぷ」(1943)や「桜(春の幻想)」(1946)も、同時に鑑賞できたが、個人的には本作が一番気に入った。