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青春デンデケデケデケ

1992年、ギャラック・プレミアム+ピー・エス・シー+リバティフォックス、芦原すなお原作、石森史郎脚本、大林宣彦監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1965年当時、四国の高校一年だった「ちっくん」こと、藤原竹良(林泰文)は、ある日、ラジオから聞こえてきた、ベンチャーズの「パイプライン」という曲の、「デンデケデケデケ…」というエレキの音に「電気的啓示」を受け、エレキバンドを作りたいと考えるようになる。

とりあえず、高校の軽音楽部へ入部しようと出かけるが、部室に独りポツンといた白井清一(浅野忠信)という同級生から、ロックを志しているのなら、こんな所に入部するのはやめた方が良いと諭される。

聞けば、白井もロックは好きらしく、ギターも多少弾きこなせるという事で二人は意気投合、早速バンド結成に動き始める。

合田富士男(大森嘉文)は、ちっくんにいつもエロ本を貸してくれる世間慣れした寺の息子。
将棋部を辞めてもらい、ベースギター担当に。

さらに、「明石のタコ」とあだ名される岡下巧(長掘剛敏)をドラム担当として、半ば強引に参加させる。

夏休み中、彼らは全員アルバイトで金を溜め、念願の楽器を購入する事に。

「ロッキング・ホースメン」とバンド名も決まり、その大音響のため、練習場所確保に苦労しながらも、彼らの練習が始まる。

そんなちっくんに声をかけたきたもう一人の同級生がいた。

工学部志望という谷口静夫(佐藤真一郎)といい、得意のメカいじりの技術で、彼らのためにアンプを作ってくれたのである。

かくして、彼ら5人の心は通じ合い、バンド練習に明け暮れる高校生活が始まるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

直木賞受賞作の原作の映画化作品で、 「がんばっていきまっしょい」や「ウォーターボーイズ」などに通ずる青春グラフィティもの。

この背景となる60年代半ば頃といえば、映画でいえば、ゴジラがシェーをする「怪獣大戦争」の併映作として大ヒットした「エレキの若大将」(1965)に代表されるように、世は正にエレキブームであった。

特に、劇中冒頭でも紹介されているベンチャーズの日本での人気は一種独特で、その根強い人気は、その後に登場したビートルズ人気とは別に、彼らが何度も来日公演をくり返している事からもうかがえる。

大林映画ではお馴染みの俳優たちが登場する中、この作品独特の一種の洒落になっているのは、寺内先生役の岸部一徳。

バンドのメンバーが合宿のために訪れた小歩危(こぼけ)の山中で、練習しているお気に入りのナンバーが「のっぽのサリー」。

寺内先生の理解で、第二軽音楽部として使用を許される部室で、後輩たちが演奏しているのは、当時、人気の頂点を極めるGS(グループサウンズ)、ザ・タイガースのヒット曲「シーサイドバウンズ」。

若い頃、長身のため、「のっぽのサリー」にあやかって「サリー」と呼ばれていた、ザ・タイガースのリーダー岸部おさみこそ、岸部一徳その人なのである。

また、同じく劇中で流れるアニマルズ「悲しき願い」の日本語カバーを唄っていた尾藤イサオも、白井の父親役として登場している。

ゲスト出演している南野陽子の家のレコード店が、いつも町にくり出している宣伝カーが奏でる当時のヒット歌謡曲の数々が時代を象徴している。

GSブーム以前の日本の音楽シーンはかなり保守的なもので、大半の若者も青春歌謡等に夢中になっていたのである。

岡下が初恋を経験する彼女が、実はロック等には興味がなく、歌謡曲アイドルだった三田明に夢中だったり、他の女学生たちも橋幸夫ファンだったりするのは、当時を知るものにとってはいかにもリアルな話。

ちっくんが劇中、突然、キャメラ(観客)に向って方言の解説をしたり、想像シーンが再現されたりというお遊び演出も楽しく、その楽しさの積み重ねが、ラストの哀愁を強調している。

大体、この種の青春ものというのは失敗作が少ないジャンルだと思われるのだが、メンバー各人を演ずる若手俳優たちの存在感(中でも、合田役の大森嘉文は絶品)もあって、本作の楽しさ、余韻の深さは、特筆すべきものになっていると思う。

紛れもなく、大林監督の代表作の一本だろう。