TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

煙突屋ペロー

1930年、童映社、田中喜次原作+脚本+演出作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

トム・タム国で一番大きな町であるチクタク市に、長い旅に出かけていた王子様が帰って来るという事で、町中は歓迎ムード。

ムッソリーニ似の総理大臣も駅でお出迎えをしていた。

そんな中、煙突掃除屋のペローは、高い煙突の上で仕事をしていたのだが、突然、鷲に追われた鳩が迷いこんで来る。

とっさに、鳩を煙突の中に匿ってやったペローは、鷲が去った後、大勢の兵隊が出てくるという魔法の卵を鳩からお礼として貰い受ける。

親方から、町中、王子様の歓迎で湧いているので、お前もいって来いといわれたペローは、駅に出かけるが、すでに、オープンカーに乗り町に走りだした王子様よりも、その王子様が乗ってきた大好きな列車の方に興味があったペローは、つい勝手に運転席に乗って機械をいじってしまい、そのために動きだした列車は、脱線して壊れてしまう。

その顛末を聞いた総理大臣は、ペローを捕まえ、すぐに見せしめのため処刑をしようとする。

立ち会った総理大臣から、最後の願いはないかと聞かれたペローは、故郷に残してきた母親に会いたいと願い出るが、それは許されず、大好きな煙突にもう一度だけ登らせて欲しいという。

その願いが叶い、煙突に登ったペローは、偶然にも国境に侵攻してくる大勢の隣国の兵隊を発見する。

それを知った総理大臣は、今こそ領土の拡大を狙うチャンスだとばかり、兵隊をくり出し戦争を始めるのだった。

しかし、自国の兵隊が全滅状態になった事を知ったペローは、以前、鳩からもらった魔法の卵を取り出すと、次々に兵隊を生み出し、その結果、トム・タム国は大勝利。
ペローは処刑を許されたばかりか、総理大臣から褒美をもらって国に帰る事が許されるのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦前に作られた影絵アニメ。

本来、字幕が登場する無声版だったが、文字が不鮮明な部分も多く、約半世紀振りに発見されたのを機に、常田富士男がナレーションを吹き込んでトーキーとした作品。

ペローは地方出身の純朴な青年、それが、都会の中で経験する恐ろしい顛末。
反戦メッセージを強烈に訴えた寓話である。

煙突屋ペローが出会う鷲と鳩も、一応顔には嘴があり空を羽ばたいて飛んでいるが、全身の姿は人間である。

「鷹派」「鳩派」的な意味合いだろうか。

一見、弱そうな鳩が、兵隊を生む魔法の卵をペローに渡すのも何やら暗示的。

色々な深読みができる仕掛けになっているようだ。

この作品が作られた昭和5年といえば、11月に「煙突男」なるお騒がせ男が出現しているが、単なる偶然なのか。

日本では、不況の中、エロ・グロ・ナンセンスが世に溢れ、ドイツではナチスが躍進を始める時期でもある。

作者の田中喜次は、そんな時代の中にあって、何か、暗い時代の到来を予感していたのかも知れない。

陰影だけの影絵の雰囲気が、内容に良くマッチしていると思う。

戦前に、すでにこういった思想性を全面に押し出した作家アニメが誕生していた事自体が驚きである。