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ピッチブラック

20世紀最後の傑作SFだと思う。
SFファンであれば、この作品を観ながら色々な過去の名作を連想するかも知れない。
「猿の惑星」「スターゲート」「エイリアン2」「ガメラ3」「トレマーズ」etc.…
では、この作品が、独創性の薄い、B級SF作品なのかと言われれば、決してそうではない事は明らかだろう。そうした過去のアイデアを、独自の感性でリミックスし、新たなビジュアルと恐怖と感動を創造していると感じる。
子供や、殺人鬼の囚人を含んだ、一般乗客を乗せた宇宙船が、事故の為、ある惑星に不時着する。
生き残った乗組員たち(殺人鬼を含む)の、砂漠の惑星上での「漂流物」のような、サバイバルとサスペンスが前半の見せ場となっている。
この辺の処理は、乗客たちの異国風なファッション(決してSF風ではない)や、独特のアート趣味溢れる画面作りで、「エキセントリックさ」と「緊張感」を保持し、観客を飽きさせる事はない。
やがて、先着者たちの住居跡を発見し彼等がすでに死に絶えている事が分かる。一人、二人…と、仲間からも謎の犠牲者が出るに及んで、この惑星には「闇を好む怪物」がいるらしい事が、徐々に判明して行くあたりは、陳腐と言えば言えるが、巧みな構成力で、観客はもう画面に釘付け状態になっているはずである。「普段は夜のないこの星」に、ちょうど22年ごとの「日食」がまさに訪れる事が分かるからだ!
二重輪を持つ巨大な衛星が、太陽を隠してゆくシーンの、美しさと無気味さは最高である。
ここから後半は、「ガメラ亡きG3」と「エイリアン2」の世界である。禍々しいギャオスのようなモンスターの群れから、何とか、残された先着者の救命艇で脱出しようとする、女性船長と、殺人鬼と、子供と、その他の乗組員たちの(重火器などは一切なし!)、決死の逃避行。サスペンスに次ぐサスペンス、次々に彼等に立ちはだかる困難…。
この辺は、たたみかけるようなテンポも良く、アイデアも秀逸で、SF版「危険な報酬」とでも言うべき、濃厚なドラマが繰り広げられるのだが、色々意外なストーリー上の仕掛けが用意されているので、詳細を伏せて書いているもどかしさがある。
最後には、ある意味「ポセイドン・アドベンチャー」のような感動が待っているのだが、息も付かせぬサスペンスSFとは、正にこの作品の為にある言葉ではないかとさえ思える。
物凄い物量作戦で攻めまくる「大作」ではないが、地味な「アート作品」でもない。ちゃちな所はほとんどなく、品があり、興奮も十二分にある…、「傑作」としか言い様のない作品だと言う事だろう。