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メトロポリス

最新のデジタル技術を縦横に駆使しながらも、どこか柔らかく懐かしいキャラクターの姿と相俟って、陰影に富んだ古典の雰囲気を漂わす、絢爛たる映像に仕上がっている。
 一画面ごとの構図や色彩設計などは精緻を極め、何時の日にか観た、フライシャーのアニメを、どこか連想させる贅沢な作りに目を見張りながらも、一方では、コントラストの強い光の錯綜が仇となり、ともすると、画面に見難さを感じてしまう部分が気にならないでもない。
 話自体は、手塚治虫初期のSF三部作を独自にアレンジしたものらしく、人間の欲望の為に生み出された、美しく無垢な人造人間と、その誕生に屈折した嫉妬心を燃やす、不遇な存在ロックの暗躍がからみ合って、巨大な破局へと突き進んでいく哀しい展開となっている。
 惜しむらくは、各キャラクターの心理的な掘り下げが不足しているために、全体的に感情移入しにくく、他方、人間の独善的野望や、差別、階層社会の矛盾点、そこから発生するクーデター騒動などといった要素も、今の観客にどこまで切実なテーマとして受け入れられるのか?など、素朴な疑問点も残る。
 特に、一見主役かと思わせるティマと、心を触れ合わすケンイチの人物造形が共に弱く、クライマックスの展開に、かなり、強引さを感じてしまう所が、この作品の弱さであろう。
 内容を観る限り、真の主役はロックの方だと感じるのだが、「バンパイア」以来かと思われる徹底した悪役ぶりも、心理の奥に立ち入る事が出来ないために、その行動に十分な納得を得られないまま、ただ傍観せざるを得ないもどかしさ…。
 しかし見方を変えてみれば、この作品はタイトル通り、様々な人間やロボット達、コンピューター網までをも包み込んだ、「巨大都市」そのものを主役として描く事が、製作者の意図した事であったのかも知れない。
 だとすると、降り続く雪が、やがては消え去っていくように、人間も又、個々の心情などとは無関係に、誕生と死を繰り返すだけの矮小な存在に過ぎない…という、後年の「火の鳥」にも通ずる無常感が、観終わった後、心のどこかに焼き付く事も確かで、気になる作品ではある。