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メトロポリス

旧制中学生だった手塚治虫は、戦時下の苦難の時期、コツコツと「幽霊男」という長編を描きためていたと言う。
 これが、戦後すぐに発表された初期SF三部作などに影響を与える事になるらしいのだが、映画「メトロポリス」は、この初期三部作を、脚本の大友氏が独自にアレンジした内容にはなっており、基本的には「戦争を通過してきた当時の手塚氏独自の夢と虚無感」にポイントを置いた作りになっているように思える。
 人間の欲望や、差別から生まれる階層社会、絶えぬ闘争など、根深いテーマを物語の底辺に秘めながらも、それが必ずしも画面から強烈に伝わってくるとは言い難く、登場キャラクターの造形が全体的に弱い事もあって、その行動にうまく感情移入できなかったり、凝り過ぎた映像も部分的に見難さを感じさせたり…と、やや、製作者の意気込みだけが空回りしているようにも感じないではない。
 一番気になったのは、主役のように思えるティマと、彼女と心を通わせるケンイチの掘り下げが不足しているために、ラストの展開に強引さを感じてしまう部分であろう。
 「バンパイア」以来かとも思われる、徹底した悪役ロックも、その屈折した嫉妬心のような複雑な心理が、今一つつかみ難いため、これ叉、主役になり損ねているもどかしさが残る。
 結局、主役は「巨大都市」そのものである…と、見るべきだろう。
 降り続く雪が、やがては溶けて消えていくように、人間も又、生と死を繰り返すだけの存在に過ぎない…という、後年の「火の鳥」にも通ずる無常観を、観終わった後、感じないでもない。
 単純な娯楽作と見るより、観客が各々、魅力を捜す多層的な作品ではないだろうか。