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ジュブナイル

子供の頃、「鉄腕アトム」や「ドラエモン」などの空想漫画を観て育った人々の大半は、それらを良くできた夢物語として、いつしか心の片隅へ追いやり、今では思い出すこともめったにないのではないか。
 しかし一方で、そのアトムを現実化しようと研究を重ね、今まさにロボットを世に送り出そうとしている人達もいて、同世代の大人達を驚嘆させてもいる。まさに、「未来は今」なのだ。
この作品の中に、山下達郎の「アトムの子ら」が流れ、20年という時の堆積がキーワードとして描かれているのは偶然ではない。正しく「夢」を追いかけ、「現実」とするための、きわめてリアルな時間設定とテーマが隠されているのだ。
つまりこの映画は、子供映画の形を借りた、大人への熱きメッセージ作品と見る方が分かりやすい。子供映画としてだけの視点で観れば、その淡々とした語り口や、どこか見慣れた感じのメカ演出に、やや物足りなさを感じないでもない。
しかし、さり気ないシーンに挿入されている、眼を見張るような見事なVFXを観るだけで、最初の「スター・ウォーズ」公開の頃から、ひたすら待ち焦がれた、かつてのSF少年たちの憧れの映像が、やっと国産で実現したという感慨にふけると同時に、観客である自分こそが主役のユースケだったのに思い至るはずだ。
20数年、僕らはテトラならぬ夢の映像を待ち続けてきた。マーケットや資本力の違いなどを理由に、旧態依然たる技術にしがみついていた、一部の映画人や保守的なファンを尻目に、着実に先進技術を導入し、長年にわたって自らの血肉にしていった、コマーシャル畑などを中心とした業界の「アトムの子ら」によって、今国産の実写映画も、ようやく世界水準の位置に並んだといえよう。次なる目標は、こうした技術に裏打ちされた、真の娯楽作の興行的成功だろう。特定のマニアだけではなく、幅広い客層に共感してもらえる作品作りも、今では不可能ではないはずだ。今後の20年を期待を込めて待つことにしよう。観客もまた「アトムの子ら」なのだから。