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アイアン・ジャイアント

他愛ない話だなと思う。日本人好みだな、とも感じる。「涙、涙」の惹句に過度に期待して観に行くと、肩透かしを食ってしまうかも知れない。因に涙脆い筆者は泣けなかった。なく暇もなく時間が過ぎ去ってしまったからである。
昔の低予算SF映画は、どうしても地方の小さな街ばかりで事件が起きるのかと、埃にまみれかけていた古典的素材を、呆れるほどのスケールアップで観客の度胆を抜いたのが「インディペンデンス・デイ」だったとすると、「アイデア次第で、小さな街でも面白くできるよ」とばかりに、もう一回、ツイストしてみせたのがこの作品であろう。
捜査陣の目から逃れるために、ロボットがオブジェに成り済ますシーンなど、明らかに「E.T.」からの引用だし、巨大ヒーロー王国の日本人には、様々な類似作品の連想を呼び起こさせるはずだ。個人的には、映像化作品ではないが、手塚治虫の「魔人ガロン」と、楡周平の「ガリバー・パニック」が頭に浮かんだ。滑稽味と悲劇性のバランスが近いと感じたからだ。
分離したロボットの手だけで、サスペンスとギャグを演出したシーンや、スクラップとアートの違いにこだわる人間を皮肉ったシーンなどは秀逸で、全体的にSFオタクのお遊びか?と思わせながら、キラリと光る才能の片鱗も見せている。
ただ、唯一観終って気になるのは、あれだけの秘密兵器を内臓しているロボットが、最後に「玉砕」と言う選択をしてしまった事だ。劇中で、少年が唐突に「バンザイ!」と日本語で叫ぶのも、このラストへの伏線と考えるべきで、だとすると、昨今SF物で流行っている、「日本型自己犠牲礼讃」ではないか。
日本製のヒーロー物や、一部アニメなどに影響された、こうしたファッションとしてのカミカゼ描写は、欧米人には新鮮なのかも知れないが、当の日本人としては複雑な思いが残る。第一、スーパーマンらしくないのではないだろうか…
それでも、ハラハラドキドキ、笑いもあり、シンミリもさせながら、メッセージも明快にスピーディーなスペクタクルで締めるこの作品は、贅沢なディナーと言うよりも、腕の良い職人の気配りが行き届いた、目にも舌にも楽しい幕の内弁当のような出来上がりで、SFマニアにも、そうでない人にも、十分に堪能できる事は言うまでもない。