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ファンタジア2000

「ファンタジア」といえば戦時中、南方などでこの作品に出会った時の文化人達が、あまりのその表現、技術力の凄さに国力の差を思い知らされ、結果、日本の敗戦を確信した、というエピソードが有名だが、今回60年ぶりに制作された「ファンタジア2000」も、今やアニメは日本製が一番、と無邪気に信じ込む「井の中の蛙」状態になっていた我々の、足元を掬ってしまうような衝撃力を持つ驚嘆の作品になっている。
デジタル技術と手描きの感覚を巧みに融合させた、2D作品と3D作品が、案内役の実写フィルムを鋏みながら、ほぼ交互に登場する構成になっているのだが、巨大スクリーンと音響の迫力も相俟って、観客たとは、正に白昼夢空間に吸い込まれるかのようなバーチャル感に酔いしれる事になる。
大衆へのわかり易さを考慮したためか、各エピソードごとのアイデア自体は、取り立ててファンタジーとして独創的とも思えないのだが、(事実、スタイリシュな線と色彩を駆使した、カートゥーン風の2D作品など、どこかで観たような錯角を覚えるほどである。)なんといっても圧巻なのは、複雑多彩な光と陰が織り成す濃密な色彩空間を生み出した3D作品群であろう。
欧米人独特の深みのある空気や光の捕らえ方、特に「陰影礼讃」ではないが、陰が持つ豊穣な豊かさを、これほどまでに具現化し得る感性と能力には、東洋人の一人として、心底嫉妬を覚えるほどである。幾つかの平面的な影の塗分け技法にいまだ終始し、大きな画面上では、明らかに背景画から動画部分が分離して見える国産アニメが、到底到達できない、美術としての完成度がここにはある。
「交響詩 ローマの松」での、氷山の下の薄明の中を舞う鯨の姿や、「火の鳥」で翼豊かに飛翔する「水の精霊」の、魔術的とも言うべき映像美は、全エピソード中でも白眉と言える出色の出来栄えで、ただただため息が出るばかりである。
データ量が膨大になるためか、クライマックスの自然再生シーンがさすがに簡略化されていたのが、唯一心残りとなったくらいで、全体として見どころは多い。
ドナルドが狂言回しを努める、ノアの箱舟をテーマにした「威風堂々」では、意図的にか「ダンボ」を彷佛とさせる雨中の動物行進シーンが再現されているし、前作からデジタルで復元された「魔法使いの弟子」では、一部の魔法使いのセル画に、当時、1枚1枚エアブラシで手描きを施していたらしきディテールなどを発見することさえできる。
日本人には古めかしく感じられるキャラクターデザインや、そつなく作られ過ぎ、「きれい事」以上のインパクトが感じられないストーリーが災いしてか、昨今の名作シリーズを中心にしたディズニーの評価は、必ずしも芳しいとは言えないが、この隠し玉ともいうべき傑作の登場で、改めてその底力を見せ付けられた思いが強い。次回作では、ダリの原案によるエピソードがぜひ観てみたいものだ。