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喜劇 猪突猛進せよ!!

1971年、松竹大船、船橋和郎原作、前田陽一監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

かつては妾も囲うほど、裕福で、甲斐性があった父親が亡くなり、今では自分の持ち家に金を払って住むまで落ちぶれてしまった母親、鈴木里枝(ミヤコ蝶々)の現在残された夢は、二人の息子たち太郎(藤村俊二)、次郎(石坂浩二)が、各々ケネディ兄弟のように立派な男に成長する事だった。

しかし、現実はといえば、気弱な兄、太郎は、サニー広告という広告会社のしがないCFデレクター。
今日も、社長の土井(財津一郎)にあれこれ文句をいわれながら、「精力剤セイツク」のダビングに四苦八苦している。

一方、カツラ会社のセールスマン次郎は、街で禿頭の客を見つけ、その人の住むマンションまで押し掛け、熱心にカツラをすすめ、その言葉のはずみで、ライバル的存在である育毛剤「髪の命」とその会社社長の悪口をいってしまうが、皮肉な事に、相手は、その社長(内田朝雄)当人だった。

気まずいまま部屋を出たところで次郎が出会ったのが、一階にある喫茶マルコ・ポーロのウエイトレス矢崎志保子(倍賞美津子)。

厚かましい性格の次郎は、志保子と二人きりで乗り合わせたエレベーターが停電で停止してしまった事から、急速に彼女に興味を持ち、その場から熱心にアプローチを始める。

しかし、志保子にはすでに付き合っている相手がいたのである。
何と、その相手とは太郎の事であった。
実の所、志保子は、太郎とは長く付き合ってきたものの、彼の男としての消極性、いつまでも煮え切らぬ態度に一抹のふがいなさを感じていた所であった。

プロレス好きで、アントニオ猪木ファンである彼女の父親は、矢崎八兵衛(伴淳三郎)といい、「髪の命」会社の宣伝課長であった。
彼は社長と一緒に、始めてテレビCFを作るため、サニー広告に依頼するのだが、社長は、そのタレントとして志保子を推薦、その写真を見た土井は彼女を一目で気に入ってしまう。

太郎も参加したCF撮りの後も、しつこく付きまとってくる土井に嫌気がさした志保子は、次郎に恋人の振りをしてくれるよう頼むのだった。

一方、30近くなっても童貞である事を弟に打ち明け相談した太郎は、キャバレーのミッチー(山岸映子)を紹介されるが、どうしても、最後の一線を踏み越える事が出来ないでいたのだが、ひょんな事から、ミッチーと一緒にホテルに入る所を、志保子と次郎が目撃したものだから、3人の気持ちのすれ違いがエスカレートして行く・・・。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「おひょいさん」こと藤村俊二は、永井豪原作コミックの初の映画化作品「ハレンチ学園」(1970)のヒゲゴジラ役という衝撃的な映画デビューを飾っているのだが、翌年、2本の主演映画を撮っている。
1本は、気弱な競馬騎手の卵を演じた「走れ!コウタロー 喜劇 男だから泣くサ」であり、もう1本が本作である。

両作品とも、生来、気弱で頼りない存在ながら、どこかに男としての夢も捨てきれない…、そんな、おひょいさん独特の飄々としたキャラクターを生かそうとした作品だったのだが、如何せん、映画の斜陽化もあって、その後、おひょいさんは名脇役ではあっても、映画の主役級喜劇役者としては大成するに至らなかった。

日本映画がその後も堅調だったならば、おひょいさんは、日本のチャップリン的キャラクターになっていたかも知れないと、つい想像してしまう。

本作は、今観ると、石坂浩二がこんなコメディに出ていたのかという驚きと、おひょいさんと兄弟役という一見ミスマッチな配役が、実は意外とハマり役だった事に気付かせる貴重な作品になっている。

この当時のおひょいさんと石坂浩二は、確かに兄弟といわれるとそう見える程度に似ているのである。

二人に惚れられる倍賞美津子はといえば、劇中で、テレビの猪木を夢中で応援している事からも分かる通り、実生活では、猪木と付き合っている最中だったと思われ、二人は、この年の暮れに結婚している。

話としては、この当時の松竹喜劇特有の「喜劇」と銘打っている割にはほとんど笑うような所もなく、どちらといえば、ペーソスドラマといった方が当たっているような内容。

さらにあろう事か、クライマックスは、1967年の有名な洋画のラストそのままになっていく。
はっきりいって、パクりもここまで露骨だと、かえって、作り手達の度胸にたくましさを感じるくらい。
当時は、映画は封切られたらそれで終わりの時代。
まさか、パッケージとなって、何年も後に、他の作品と比較されながら観られるようになるとは想像もしていなかったのだろう。

主題歌を歌っている歌手の安部律子が劇中で登場していたり、とある実在のうどんスープの名前を連呼しているシーンがある事などから、当時の映画のタイアップ事情などをうかがい知る事もできる。