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エノケンの近藤勇

1935年、P.C.L.、山本嘉次郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

慶応2年、高下駄をはくと強くなる近藤勇(榎本健一)、今日も、町民に迷惑がられながらも勤王党とチャンバラに明け暮れていた。

そんな近藤と夜桜見物に祇園に出かけた加納惣三郎(花島喜代子)は、付き合っていた芸者の雛菊が、病気の父親を助けるため、島原に売られて行く事を打ち明けられる。

一方、間諜X27番(中村是好)からの知らせを受け、桂小五郎(二村定二)の行動を掴んだ近藤は、一人、その暗殺に出かけるが、三本木道で待ち受けた籠に乗っていたのは、桂の愛人の幾松(千川輝美)であったため、遅れて歩いていた桂は危機を脱する事が出来る。

その後、加納の恋心を心配した近藤は、田代又八(如月寛多)に秘かに金を渡し、加納と一緒に島原へいってくるよう命ずるのであった。

話変わって、視力が弱く眼鏡を外すと何も見えなくなる坂本龍馬(榎本健一-二役)は、愛人のお龍(高尾光子)と英語の練習中、訪ねてきた同士の中岡慎太郎(柳田貞一)と、部屋据え付けの遠目がねで、桂と幾松のデートを除き観る事に。

そんな龍馬の噂を聞き付け、又しても一人暗殺しに出かけた近藤は、度胸にいいお龍の妨害と、坂本らと会談をしていた山岡鉄舟(丸山定夫)の説得にあい、勤王派の仲間達には、まんまと逃げられてしまうのであった。

そんな竜馬と中岡は、宿で敵の襲来を受け、お龍の「アイラブユー」の言葉を聞きながら絶命。

その頃、巷で横行していた辻斬りの現場に出くわした加納、つい魔がさし、被害者が落とした財布を手にとった所を、遅れてやってきた田代に見つかり、愛人に会うために金目的の辻斬りをしたと勘違いされてしまう。

問答無用で斬りかかってきた田代を、逆に斬ってしまった加納は、自責の念に駆られ、今は錦木太夫と名を変えていた雛菊と心中を決意する。

世話になった自分宛への加納の遺書を手に、現場に駆け付けた近藤は、すでに息絶えた二人の姿に合掌しながら、池田屋へと向うのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

割と良く知られたエピソードを中心に組み立ててあるらしいので、全くのオリジナルストーリーに比べると、全体的にドタバタ振りがおとなしい印象がある。

恥ずかしながら、歴史ものに全く疎く、加納惣三郎という人物を、何故、女性が演じているのであろうかという疑問を持ったので、調べてみたら、何と、この人物、大島渚作品「御法度」(1999)で、松田龍平が演じていたあの妖し気な美少年ではないか。

ひと頃まで、新撰組の美青年といえば、何となく沖田総司というイメージがあったが、これはどうやら、人気テレビドラマの役者のイメージから始まったものらしい。

戦前の映画である本作を見る限り、もともと、近藤勇からも可愛がられた新撰組の美少年といえば加納惣三郎の事だったのだろう。(決して、司馬遼太郎の創作ではなかったという事だ)
さらに、本作には沖田総司は登場しない。

しかし、男装の女優が登場している事で、画面上、改めて、エノケンの小柄振りを知らされた。
エノケンは、並んだ加納やお龍たち女優陣の誰よりも背が低いのである。

これが、「高下駄をはくと、急に強くなる」というギャグに繋がっている訳だ。

さらに、宴会の席で、「ララバイ・イン・ブルー」などというバタ臭い流行歌を龍馬(この映画では「りゅうま」と呼んでいる)役のエノケンが歌ったり、「印度渡来頑爺軒」と書かれた幟を持ったガンジーのそっくりさんが占師として登場したり、剣劇の場面になると、アニメのお月様が顔を隠したり、ボレロの曲が背景に流れたりと、相変わらずの洒落た演出が次々に登場する。

クライマックスでは、有名な池田家騒動の階段落ちなどもちゃんと描かれている。

ラジオの時報をギャグにしたらしきシーンでは、当時、日本の時報だけではなく、満州と台湾の時間も同時に流していた事が分かる。

正直、コメディとしては今一つの感があるが、戦前の新撰組周辺のイメージなどを知る事が出来、大変興味深い。