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娘・妻・母

1960年、井手俊郎+松山善三脚本、成瀬巳喜男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

保険の外交をしている戸塚菊(中北千枝子)を介して、彼女の旧友で日本橋の老舗に嫁いだ長女早苗(原節子)の実家の構成人員が冒頭部で要領良く紹介されて行く。

次男で、妻、美枝(淡路恵子)の経営する喫茶店の二階でカメラスタジオを開いている礼二(宝田明)。
そこにCM撮りに来ている三女で、ぶどう酒メーカーに勤務している春子(団令子)とその同僚(太刀川寛)。

次女で、おとなしい夫、英隆(小泉博)と、その口うるさい母親(杉浦春子)との同居にうんざりしている幼稚園の保母、薫(草笛光子)。

そして、長男勇一郎(森雅之)の母親(三益愛子)と実家を守っている妻、和子(高峰秀子)。

一見平凡なこの家族たちに、ある日、小さな波瀾が起きる。

長女早苗の夫が、慰安旅行で出かけたバスの事故に巻き込まれ急死してしまったため、その早苗が実家へ戻ってきてしまったのである。

彼女は、100万円を遺産として貰い受けてきたのであるが、その金の存在を知った家族たちは、何かと彼女に無心するようになっていく。
今後の自分が頼れる唯一の財産と分かっていながら、頼まれると断りきれない早苗は、ズルズルと承知して行く事になるのだが・・・。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ちょっとしたきっかけで、少しづつ人間関係がギクシャクしていく家族たちの様子を淡々と描いていく。

地味といえば地味そのものの内容で、何か劇的なドラマが用意されている訳ではないのだが、飽きる事なく最後まで見せて行く演出手腕は見事。

結婚先でも苦労し、二度と結婚はすまいと決意しながらも、どこか優柔不断な所がある早苗。
勝ち気な薫。
ただでさえ夫の母親との同居で気苦労の多い生活だった所へ、長女という厄介者が加わって困惑する和子。
どちらかといえば、お気楽でドライな性格の礼二と春子。
家長としての責任を背負っているためか、表面的には堅物ながら、実は心理面で脆い所を持つ勇一郎。

各々のキャラクターが適材適所のキャスティングを得て、さりげなく、しかしリアルに描き分けられている。

息子を溺愛している英隆の母親や、和子の叔父で町工場の経営で汲々している金本(加東大介)らの姿も現実感がある。

話全体がいかにも、どこの家庭でも起こり得そうな内容なのである。

では、気がめいるような辛気くさい話なのかといえば、そうでもなく、春子の会社の関係者で、甲府から出向いてきた若き醸造技師の黒木(仲代達矢)や、戸塚菊が気を利かせてセッティングした見合い相手の五条(上原謙)の登場により、どこか閉息状態にあった早苗に、ほのかなロマンが生まれそうになる様子などが、一服の清涼剤のように描かれている。

早苗のロマンは成就するのか・・・?
この頃の仲代は、初々しい二枚目そのものである。

ちょっと分かりにくいが、近所の公園で、三益愛子演ずる老母が最後に出会う乳母車を押す老人は、笠智衆である。

まだ、当時はそんなに老齢でもなかったと思われるが(50代半ばくらい)、しっかり老人に見えるから凄い。