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桃太郎侍 江戸の修羅王

1960年、第二東映、山手樹一郎原作、尾形十三雄脚色、深田金之助監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

とある境内の祭礼で、一人の侍が、女スリに懐のものを抜き取られたと息巻いていた。
その仲裁に入ったのは、商人風の口の達者な男、猿之(ましらの)伊之助(星十郎)。

しかし、その伊之助もスリ仲間と思い込んだ侍は、刀を抜いて斬り掛かる。

そこに現れたのが、水も滴るような涼し気な顔だちで「桃太郎」を名乗る美剣士(里見浩太朗)だった。
斎藤喜平太(国一太郎)と名乗るその侍に、懐中から落とした袱紗包みを返却して立ち去ろうとした桃太郎だったが、数人の侍たちが詰め寄り、袱紗包みの中を見たかと詰め寄る。

とぼけてその場から逃れた桃太郎の人柄にすっかり惚れ込んで付いてきたのは、伊之助。
自分を後見人にさせてくれと頼み込み、自分の長家で桃太郎を住まわせる事になる。

桃太郎の男振りに惚れたのは伊之助だけではなかった。
先ほどの女スリ、今は一応堅気で小唄の師匠をしているという小鈴(千原しのぶ)も、桃太郎に近づきたくて長家まで付いてきてしまう。

後日、釣りに出かけていた桃太郎は、江戸屋敷に住まう讃岐丸亀藩の家老神島伊織(宇佐美淳也)の娘で、神田明神に祈願に出かけて帰宅する途中の百合(朝風みどり)の駕篭とすれ違うのだが、百合は桃太郎の顔を見て驚く。
桃太郎は、丸亀藩の若君、若木新之助(里見浩太朗)そっくりだったからである。

後刻、暴漢に囲まれていた百合を助けた桃太郎は、長家に付いてきた彼女から思い掛けない依頼を受ける。
若君の身替わりになってくれないかというのであった。

聞けば、お家乗っ取りを企む家老鷲塚主膳(岡譲司)は、家臣である伊賀半九郎(坂東好太郎)を江戸に差し向け、若君を亡き者にしようとしているというのであった。

実は桃太郎は、その少し前に、言い寄ってきた小鈴から全く逆の立場から同じ話を聞かされていた所だったのだ。
というのも、小鈴の兄が、伊賀半九郎に雇われる身であったからだ。

幼い頃、同じ兄弟でありながら、双子であるために捨てられた新二郎こと桃太郎は、結局、その後、毒を飲まされて寝込んでしまった兄の身替わりとなって、丸亀藩に帰る事になる。

その道中を狙うは、伊賀半九郎一味と、桃太郎の正体を知らない小鈴であった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

長谷川一夫主演で作られた大映作品「修羅城秘聞 前編」(1952)と同じ「桃太郎侍」の前編であり、両者はほぼ同じ内容になっている。

高貴な身分の人間が、遠く離れた地方へ流されて苦労するという、典型的な「貴種流離譚」パターンをベースとした話といえよう。

第二東映の作品という事もあって、あまり有名な役者は登場しないが、かなり生真面目な印象が強かった長谷川一夫版と違って、本作の方が、娯楽映画としてはくだけているというか、肩の凝らない庶民派向けの作風になっている。

そういう意味では、テレビで高橋英樹が演じた「桃太郎侍」との橋渡し的存在と言えるかも知れない。

細面の美剣士を演じる里見浩太朗は、二役を演ずる若君の方もなかなか似合っており、若さもあって、若干ひ弱な感じがする他は、一番原作の桃太郎に近いイメージなのではないだろうか。

小鈴を演ずる千原しのぶは、正に日本画から抜け出してきたようなほっそりとした妖艶な和風の美女で、庶民派的な風貌の朝風みどりとは対照的。
憎めない悪女役を良く演じている。

ちなみに、「ひと〜つ、人の世の生き血を啜り、ふた〜つ、不埒な悪行三昧、み〜っつ、醜い浮き世の鬼を、斬ってくれよう桃太郎!」…などという決めセリフは、後のテレビ版で作られたものであり、当然ながら、映画版には登場しない。