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アニメの世界で、動きのリアルさを追求する方法論の一つに、実写の動きをそのまま写し取るという発想がある。

セルアニメの時代の、ロト・スコープのアイデアなどがそれである。
アニメ特有のデフォルメした奇抜な動きなどが出し難いなど、欠点もあるが、手描きでは不可能な一種異様なリアルさを生み出す事も確かである。

モーション・キャプチャーとデジタル・キャラクターを連動させた本作のテクニックは、その発想法の延長線にあるものである。

その方法論に関しての賛否はあるだろうが、従来、我が国の商業作品ではあまり試された例がないだけに、本作の試みは注目に値する。

結果は…、一応の成功といって良いだろう。

意外と、日本のアニメのドラマ傾向には向いているのではないかとさえ思った。

日本では、テレビアニメの影響で、動きの少ない演出に慣れているという事もあるのだろうが、幼児対象のものをのぞけば、基本的に、動きに関してスラプスティックなものを、大衆があまり求めていないように思えるからだ。

デジタルが得意とするメカ表現なども、一部のマニアが好きなものだし、確かに、この技法はある種のマニアターゲットには打ってつけのテクニックなのかも知れない。

無表情な美少女キャラたちも、技術的な制限というよりも、意図的に一部マニアの好みに合わせているように思える。

ただし、逆にいえば、マニアではない一般の客にとっては、そうした本作のテクニックの類いは、さほど興味を持たれないと思う。
彼らの興味の対象は、あくまでもドラマの内容や、キャラクターの魅力にあると思われるからだ。

そうした視点から本作を観た場合、アレンジしてあるとはいっても、基本的には、何十年も前に描かれた原作の再現に、正直、新鮮さはない。

かなり噛み砕いて、世界観を分かりやすくしようとしている意図は感じられるが、それでもやはり、基本的にすんなり理解できる設定ではない。

後半になって、おぼろげながら、全体像がつかめて来るが、そこに何か衝撃感がある訳でもない。

結局、ピカピカした未来世界のイメージや、そこでの愛憎劇など、過去、(拙い技術ではあったかも知れないが)いろんな作品で観慣れているのだ。

いくら、最新のデジタル技術で、そのイメージをリアルなものにしたところで、驚きが増す訳でもない。

とすると、残された見所は、アクションものとしての爽快感であるが、こちらもまずまず…といった所であろう。

キャラクターの魅力に関しては…、好みもあるだろうが、あまり成功しているようには思えない。

基本的に、原作の選定の段階で、問題があったというしかない。
原作が悪いというのではなく、一般向けではないという事だ。

つまり、この作品は、ある種のマニアにとっては、技術的な一つの到達点として評価されるものだろうし、一般の観客にとっては、代わり映えのしない「SFイメージ」の世界と映るのではないか。

本作はあくまでも、ターゲットを絞り込んだ技術的な実験作として考えたい。

今後は、このテクニックを活用した、色々なジャンルへの展開に期待したい所である。