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海の花火

1951年、松竹大船、木下恵介脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

九州、佐賀の呼子が舞台。

政府の「食料不足、漁業推進」の呼び声に答えて、二隻の手ぐり漁船を所有した神谷(笠智衆)は、組合を作ったものの、雇った船長(宮口精二)や唐澤(永田靖)ら悪質な船員が現場を牛耳ってしまい、その結果、赤字続きの状況に悩まされていた。

見兼ねた幼友達で芝居小屋を経営している相川(坂本武)や、使用人の鯨井民彦(佐田啓二)らが神谷と相談し、結局、船長ら全員を解雇して、新しい船長を探す事にするのだったが、その報告を聞かされた船長は、逆上して、民彦に怪我を負わせる始末。
民彦の母親(杉村春子)は、お門違いにも、原因を作った神谷を恨むのだった。

そんな神谷には二人の娘があった。

見合いで結婚したものの、すぐに夫が戦死して戻ってきた姉の美衛(小暮実千代)と妹の三輪(桂木洋子)。

実は神谷には、頼りとする息子もいたのだが、戦死してしまい、今は、夫婦共々、すっかり生きる力を失いかけていたのだった。

そんな美衛の元に、かつて当地にいた事があり、その時以来、秘かに美衛に好意を持つようになった魚住省吾(三木隆)という、裕福な家の美青年が4年振りに東京から訪ねて来る。

魚住は、神谷の家の事情を知ると、早速、長崎で連絡船の船長をしていた矢吹毅(三國連太郎)、渡(向坂渡)兄弟を、新しい船長として呼び寄せる。

東京に戻った魚住には、ぶらぶらしている兄(細川俊夫)の妻である薫(山田五十鈴)が結婚を薦める、姪の野村由起子(津島由起子)という相手がいたのだが、魚住はきっぱりその話を断わろうとする。

しかし、薫は、何とか、省吾と由起子の縁談を実現しようと企んでいた。
実は、彼女自身が、若く美しい省吾に、義姉弟として以上の感情を持つ事から来る屈折した行動だったのだが、それに気付いた由起子の方も、裕福な家の娘としてのプライドを傷つけられた事に、秘かな復讐心を抱くようになっていく。

一方、呼子の方では、矢吹兄弟の参加も空しく、神谷の家はピンチを迎えていた。

全般的な大漁で、魚の値段が暴落する中、さらに追打ちをかけるかのように「減船」政策が言い渡される。

少しでも高値で船を売って、積もり積もった借金を返そうと腐心していた神谷は、何とか事態を打開しようと、東京の水産庁に直談判に出かけるのだが、今までの無理が祟ったのか、心労のあまり倒れてしまうのだった…。

木下監督が渡仏記念として自ら書き上げた脚本を元に作られた2時間以上にも及ぶ大作。

基本的には、経営に苦しむ神谷の家を中心とした人間模様を描く物語なのだが、東京の省吾をめぐる富裕な女性たちの心理ドラマをはじめ、様々に入り組んだ要素が絡んでいるので、話の印象が分裂気味である事も確か。

美衛には、矢吹の兄、三國連太郎も秘かに惚れており、友人である省吾との板挟みになる。
その矢吹兄を惚れるのは、かつて、唯一身体を許した許嫁の男の消息を訪ねて、呼子に流れてきた芸者のみどり(小林トシ子)。

一方、矢吹の弟の方は三輪を好きになるのだが、三輪は、家の窮状を救うため、気の進まぬ結婚を承知しなければならなくなる。

民彦の母親は、自分の知らない内に、自分の地所が、神谷の借金の担保に入れられている事を知り逆上するのだが、実はその裏にも、彼女が知らない秘密が隠されていたのである。

さらに、恋人を追って海辺で泣く内に、石になってしまったという佐用姫伝説から、矢吹兄の男らしさに憧れる身寄りのない少年一平(石浜朗)の話や、殺人強盗を犯した荒くれ者の逃走劇まで絡ませてある。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

かように要素は複雑を極め、それなりに見ごたえがあるともいえるのだが、後半は、広げ過ぎた要素を、何とかまとめる事で精一杯になってしまった感がある。

結局、恋愛劇にしたかったのか、地方の網元の苦悩が描きたかったのか、焦点がはっきりしない。

一体、この物語の主人公は小暮実千代なのか、それとも笠智衆なのか。
それとも、三國連太郎なのか、三木隆なのか…、その辺がはっきりしないのも、本作の印象をぼやけさせている一因といえよう。

取りあえず、この頃の三國連太郎は凛々しくて魅力的である。