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ロスト・メモリーズ

2004年、韓国映画、イ・サンハク脚本、イ・シミョン 脚本+監督作品。

1909年、満州ハルピンの駅に、伊藤博文が列車から降り立つ。
それを暗殺しようと待ち構える韓国の愛国者安重根。

しかし、彼は目的を達成する事が出来なかった…。

かくして、1910年日韓併合。初代総督に伊藤博文が就任。
1921年、二代目総督に井上が就任。
1936年、日本はアメリカと同盟を組み、第二次世界大戦に参加。
1943年、日本、満州併合。
1945年、ベルリンに原爆投下、第二次世界大戦集結。
1980年、日本、国連の常任理事国になる。
1985年、日本製人工衛星「さくら1号」発射に成功。
1988年、名古屋オリンピック開催。
2002年、日本でワールドカップ開催。

そして、2009年…、物語は始まる。

もし、歴史がこうなっていたら…という「IFの世界」を描いたものである。

この物語の発想が、今の韓国人にとって「絶対こうなって欲しくなかった、暗黒の歴史観」である事は分かる。
韓国人にとって、一種のデストピアであると思われるからだ。

では、逆の立場にある日本人にとって、この世界が「ユートピア」に見えるかというと、実は案外そうでもない。

今の韓国の人たちにとってみれば、これは、現実の韓国とは違う、あくまでも「被虐的発想を楽しむフィクション」の世界であろう。
いくらかは、プロパガンダ的背景も含まれるのかも知れない。

しかし、日本で暮す在日の人たちにとっては、これは本質的に「現実そのもの」であり、そういう人たちと無意識に同居している日本人にとっても決して「フィクション」ではないのである。

実際、この映画に登場する韓国の様子は、今の日本そのもの。
東京そっくりの町並みや日本語表示のパソコン、いわゆるSFチックで、空想的なものはほとんど登場しない。

それが、この作品の面白さである。
観る人の立場によって、全く異なった解釈ができる架空の世界。

物語は、二代目総督井上の韓国における美術コレクション展示会場が、朝鮮解放同盟と名乗る不令鮮人テロリスト達に占拠される事件から幕をあける。

乗り出してきたのは、捜査局「JBI」。
その中には、警察学校時代から親友同士である日本人西郷正次郎(仲村トオル)と、朝鮮人坂本正行(張東健)の二人も含まれていた。

坂本は、同じ警察官であった父親、正夫が、何故か不令鮮人に協力した裏切者として、同僚らの手によって射殺された過去を重く背負って生きていたのであった。

そんな正行は、独自に事件を調査する内に、意外な事実を知るようになっていく…。

ストーリー展開そのものは良くあるパターンだが、なかなか迫力あるアクションシーンの連続で飽きさせない。

理屈で観てしまうと弱い部分もあるのだが、あくまでも、この「IFの世界」の居心地の悪さを楽しむものだと思う。

VFX処理なども若干出ては来るが、そうした「特撮スペクタクル」で見せる類いの作品ではない。

あくまでも、設定の面白さから生まれる奇妙なドラマで見せていく作品である。

個人的には、近年いくつか観てきた空想映画の中で、最も面白く感じられた一本である。

仲村トオルの凛々しさも魅力。