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指導物語

1941年、上田廣原作、沢村勉脚色、熊谷久虎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

機関士の瀬木(丸山定夫)は、鉄道勤務35年、後3年で定年を迎えるというベテランであった。

彼の最近の不満は、若い兵隊たちを機関士見習いとして教える役目が廻ってこなくなった事である。
まだまだ、指導員として衰えてはいないと、上司に掛け合いに行く。

上司としては、昨年妻を亡くし、そかも残された三人娘の一人は病気で寝込んでいるという瀬木の家庭事情を考慮しての配慮だったのだが、あまりの瀬木の熱心さに、気持ちを変える事になる。

それから数日後、瀬木に久々の兵隊指導が任される。
喜びを隠しきれない瀬木は、さっそく、機関員として配属されてきた兵隊達の集団から自分の教え子を見つけだそうとする。

彼の担当となる相手は、二等兵の佐川新太郎(藤田進)という、母子家庭育ちの真面目そうな青年であった。

一方、同じく機関員として派遣された兵隊ながら、大学出の草野(中村彰)は、先輩機関士たちや周りの兵隊仲間の無教養な雰囲気に、最初から反発を感じていた。

やがて、佐川や草野に、機関士としての過酷な訓練の毎日が始まる。

昼間は、実際に機関車に乗り込み、身体で機械の操作やスピードの感覚を教え込まれ、夜は夜で、学科を叩き込まれて、睡眠時間などほとんどないに等しかった。

瀬木は、ある時は優しく、ある時は厳しくと、佐川を懸命に指導していき、その真面目な人柄に惚れ込んで、娘の婿になってくれれば…などと、淡い期待も抱くようになっていくが、佐川の方は、その瀬木の過剰な期待に押しつぶされそうになっていた。

草野の方も、過酷な訓練の結果、乗務中、過去の幻影に侵されてしまい、走行中の列車から墜落して怪我を負ってしまう…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

タイトル前に「征かぬ身は…援護へまっしぐら」云々の檄文が挿入される事からも明らかなように、本作は、交通省と陸軍省がバックアップして、 銃後を守る国民達への啓蒙を目的として作られた戦時中の国策映画である。

であるから、ストーリーそのものは、生真面目さが強調されており、やや変化に乏しい感じもする。

だが、見所がないのかといえば、これが結構あるのである。

まず、瀬木の三人娘の長女、邦子を演じているが原節子である事。

病弱の自分を恥じ、学校を辞めて働こうとする三女の好子(水谷幸子)、唄が大好きで屈託のない次女咲子(若原春江)を、母親代わりになって面倒を見るお姉さんの役を良く演じている。

彼女の父親役である瀬木を演じている丸山定夫は、「レ・ミゼラブル」の翻案である伊丹万作作品「巨人伝」(1938)で 、憎々しい警官ジャベールに当たる曽我部弥次郎をやった人であり、原節子とはその時にも共演している。

「巨人伝」では、16,7の娘を演じていた原節子であるが、本作では、もう戦後のイメージに近づいている。
風格があるというか、言い方を変えれば「老けて見える」のである。
実際は20歳くらいだと思われるのだが、娘二人のお母さん役といわれても、本当にそう見えてしまうくらい。

藤田進の若々しさも見所だが、意外な注目点は、特撮が使用されている部分がある所。

雪の荒野をひた走る機関車をロングでとらえた3カットほどは、列車の煙の重量感、遠方の住宅の内部照明の感じからして、おそらく精巧なミニチュアで作られたジオラマセットであると思われる。

しかし、本当に房総を走る素晴らしい実写映像も挿入されているため、特撮との観分けがつきにくい。

このシーンを担当をしたのは、時期的に、おそらく円谷英二ではないかと推測される。
本来、目立ってはいけない特撮シーンとして、見事というしかない出来である。

交通省が協力しているだけあって、機関車が走行するシーンは、映像としても素晴らしいものばかり。
機関車マニアでなくとも、ため息が出て来るような映像の連続である。

ラストシーンは、こうしたドラマの通例とは分かっていても、やはり胸打たれるものがある。

今回、20年振りのスクリーン公開だったらしいが、唯一、気になったのは音質のあまりの悪さ。
セリフの半分以上は、きちんと聞き取る事が出来なかったのが悔しい。