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大江山酒天童子

1960年、大映京都、川口松太郎「大江山酒天童子記」原作、八尋不二脚本、田中徳三監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

源頼光(市川雷蔵)の 四天王、渡辺綱(勝新太郎)、酒田金時(本郷功次郎)、卜部季武(林成年)、碓井貞光(島田竜三)、そして、平井保昌(根上淳)らがいきなり鎧装束で登場し、大江山の酒天童子を討ち、巨大な鬼の首が襲い来る所がアーバンタイトルとして描かれる。

タイトルは、「いわゆる大江山の鬼退治はこうであったとされている。だがしかし…」と始まる。

強欲なだけで政を顧みない関白、藤原道長(小沢栄太郎)は、7年前、略奪した他人の人妻、渚の前(山本富士子)を、今度は、政略目的で源頼光に譲り渡そうとしていた。

その時、空に怪しい雲が出現し、そこから現れた黒い水牛が渚の前を背中に乗せて誘拐しかけるが、その場にいた酒田金時に助けられる。

一方、その頃の都は、袴垂(田崎潤)、荒熊太郎(上田吉二郎)ら山賊に荒らされていた。
池田中納言の娘、桂(金田一敦子)は、彼らにさらわれてしまう。

渚の前は、夫を裏切った自分は呪われていると思い込んでおり、暗い心のまま、頼光の側に使えるようになるが、そこで、長年、頼光の世話をしてきた、渡辺綱の妹こつま(中村玉緒)と出会う。

その頃、当の渡辺綱は、京の夜道を独り歩く美しい女を見かけ怪しんでいた。

月明かりで水たまりに写った、その女の顔は鬼であった。
正体を見破られた茨木(左幸子)は、組み付いてきた綱を諸共空に連れ去ろうとする。

綱は空中で、その鬼の片手を斬り落とし難を逃れる。

安倍清明(荒木忍)から、鬼は必ずこの片手を奪い返しに来るから、三日三晩、門に御札を貼って、守りぬかねばならないといわれた綱は、最後の朝に里から遠路はるばる訪れたという叔母を、情にほだされ家に入れてしまう。

しかし、その叔母こそ、茨木の化けた姿で、綱はまんまと片手を奪い去られてしまう。

洛中の百鬼夜行に業を煮やした頼光は、大江山の酒天童子を退治に出かけようとするが、こつまが自分が一人で偵察して来ると申し出る。護衛として酒田金時が同行して大江山に登るが、そこには先に山に入り込んだ人間たちの遺体が吊るされていた。

やがて、こつまと金時の前に現れたのは巨大な黒水牛であった。
その牛は、妖術を使う山賊の一人、鬼童丸(千葉敏郎)の化身であった。

捕らえられた金時は、かろうじて独力で脱出して京へ戻るが、こつまの方は山賊達の虜となり、彼らの頭である酒天童子(長谷川一夫)と対面させられる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

有名な酒天童子や、渡辺綱と茨木童子の逸話などをベースに、新解釈の物語となっている。

単なる妖怪変化だと思われていた酒天童子や茨木童子を、人間臭いキャラクターとして描いているのが見所。

全体の雰囲気は「陰陽師」などにそっくりである。

特撮シーンもふんだんに登場し、僧正に化け頼光に近づいた土蜘蛛が、頼光の振るう妖刀「鬚切り丸」で返り討ちにされた後、征伐に駆け付けた四天王の前で、巨大な岩を突き崩して出現する所など、全長7,8mはあろうかという作り物の蜘蛛が登場し、まるで怪獣映画のよう。

冒頭に登場する巨大な鬼の顔や黒水牛も、実物大の作り物が用意されており、鬼の特殊メイクなども当時としては優秀な技術で再現されている。

配役を見れば一目瞭然、往年の大映の若手看板スター勢ぞろいである。

長谷川一夫は、さすがに老いた姿が痛々しいが、それでも、複雑な心理を持つ酒天童子を貫禄でこなしている。

クライマックスで、酒天童子の本拠地に乗り込んだ頼光と四天王たちが、紫、青、黄色、緑などの色鮮やかな衣装でうち揃う姿は、まるでテレビの戦隊ものでも観ているかのよう。(中村玉緒が真っ赤な衣装!)

だが、本作で、一番美味しい役所をもらっているのは、若き中村玉緒である。

まだ、勝新と結婚する前であるが、長谷川一夫や山本富士子らと立派に対峙している。

作品としては、見所はあれこれ詰め込んであるものの、大作の宿命か、やや冗漫な感じもあるし、ラストのあっけなさも物足りない。

だが、さすが、撮影所全盛時の力技は画面の隅々まで感じられ、その厚みには、どんなにデジタルで対抗しようがかなわないものがある。

あまり有名な作品ではないが、一見の価値はある特撮時代劇ファンタジー大作である。