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南海の花束

1942年、東宝映画、阿部豊+八木隆一郎脚本、阿部豊演出作品。
特撮は、円谷英二である。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

南方の島々をめぐる郵便配達を担当する航空会社に、新任の支所長五十嵐(大日方伝)が赴任して来る。

彼は、現地の乗務員達に丸め込まれ、まるで存在感のなかった前任者と打って変わって、びしびし現場の問題点を指摘していく厳格タイプであった。

今まで、何の問題もなく飛行を続けていた乗務員達の身体検査を突然実施し、内二人を、不的確として地上勤務に替えてしまう程の徹底振り。
さらに、台風が接近する最中、地上勤務に廻された石川(田中春男)に代わって、原田(大川平太郎)と小笠原に飛行が命じられる。

石川の気持ちを察し、複雑な心境で旅立った彼らだったが、途中、嵐の中、発動機不良で、彼らの乗った水上機は海上に不時着。

この遭難騒ぎによって、それまで燻っていた新支所長に対する乗務員達の反発心が爆発する。

そんな中、補給乗務員として、五十嵐の旧友、日下部(河津清三郎)が赴任して来る。

乗務員仲間の内、西條(清水将夫)ら不満分子達は、かつて、五十嵐を教官とする訓練機に搭乗中、墜落し、五十嵐の片足を負傷させてしまい、それ以来、五十嵐が空を飛べなくしてしまった事を悔やんでいた古狸こと堀田(真木順)と共に、新任の日下部をも五十嵐の腹心だと距離を置きはじめるのだった。

ところが、行方不明だった原田と小笠原の生存が確認され、無事に船で帰り付く。
事故の原因も、天候とは無関係だった事が判明、原田自らも五十嵐の人柄に引かれていく。

やがて、五十嵐ら全員の夢であった、赤道越えの長距離航路開発の計画が具体化する。
島には大型の四発機が到着し、誰もが、その最初の乗務員になりたがるのだったが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦時中の南方の島を舞台にしながらも、戦闘シーンなどは一切ない、ちょっと異色の航空感動ドラマ。

戦後は、どちらかというと悪役イメージが強かった河津清三郎が、すがすがしい操縦士役として登場して来るのも意外なら、堀田の妻を、若い杉村春子が演じているのも珍しい。

単発の水上機シーンは、全てミニチュア。
後半に登場してくる四発機は、実写とミニチュアシーンの使い分けがされている。
さすがに、実写シーンはリアルで美しい。

ミニチュアの出来は正直な所ちゃちというしかなく、前半の単発機海上不時着のシーンも、さほどの出来とも思えないのだが、さすがに、後半、四発機が嵐に遭遇するシーンになると見ごたえがある。

荒れ狂う波飛沫の上を掠め飛ぶ四発機。
そのすぐ脇を狙うかのように、何発も海面に落ちる雷の電光。
雷に打たれ爆発する波間、迫力十分である。

後の、キングギドラの無重力光線による都市破壊や、サンダを狙うメーサー車攻撃の原点ともいうべき演出ではないだろうか。

ドラマとしては、五十嵐の上司としての葛藤。
堀田の古参乗務員としての葛藤。
空への夢を突然断ち切られた石川の、絶望から狂気に移行していく辺りの描写などが興味深い。

クライマックス、広がる雲海の中を小さな四発機が飛ぶ様は、飛行機大好き人間、宮崎駿監督の「紅の豚」などを連想させる気持ち良さ。

同じく飛行機大好き人間だった円谷英二も、さぞかし、乗って参加した作品だったのではないだろうか。

全体的に地味な展開の作品ではあるが、後半、杉村春子が登場すると、ぐっと感動的になる部分が見所。

「飛行機乗りは、神様の次に地球を見る事ができる仕事。神様が焼きもちをやく仕事」などというセリフが素晴らしい。

後味も、決して悪くない。