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来るべき世界

1936年、イギリス、H.G.ウエルズ原作、ウィリアム・キャメロン・メンジース監督作品。

タイトルも含め、途中で登場する解説文字も工夫が凝らされ、美術的なレベルの高さに唸らされる。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

1940年、クリスマスを迎え賑わうエブリタウンには、戦争の脅威が迫っていた。
航空技師ジョン・キャバル(レイモンド・マッセイ)は、パーティの席で、友人達と、戦争が有益か否かを話し合っていた。
友人は、戦争とは「人類の進歩に必要なカンフル剤である」と楽観論を述べている。
しかし、キャバルは、人類の将来を憂いていたのであった。

やがて、国籍不明機が海岸線から飛来し、戦争が始まる。

戦いは何年にも及び、敵の撒いた毒ガスのせいで、新種の夢遊病のような病気がまん延する。
1970年、疫病は根絶されたが、人心は荒廃し、いつしか、エブリタウンには、ボスとも、チーフとも呼ばれる粗暴な軍人上がりのリーダー、ルドルフ(ラルフ・リチャードソン)が出現し、町を牛耳るようになっていた。

町では、燃料は払底し、飛行機も車も、皆、使い物にならなくなっており、まるで中世の生活に戻ったような有り様であった。

そんなエブリタウンに、ある日、どこからともなく新種の飛行機が飛来し、着陸する。

操縦室から降り立ったのは、不思議な服装に身を包んだ一人の男であった。

何と彼は、かつて、この町に住んでいたキャバルであった。

彼は、旧友のハーディング(モーリス・ブラッデル)と再会を果たすが、キャバルの素性を怪んだチーフによって幽閉されてしまう。

やがて、キャバルが囚われの身となった事を知った新世界バシュラーの新型飛行機が大挙して飛来し、町に「平和ガス」なるものを撒く。

かくして、キャバルは救われ、ボスは滅び、町は科学に立脚した新しい秩序の世界に生まれ変わるのだったが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

H.G.ウェルズの思想、歴史観が、当時としては見事な映像技術によって再現されている。

空襲によって破壊されるエブリタウンの惨状と、荒廃したエブリタウンの対比。

さらに、科学力によって、地底に作られた2036年の未来都市の景観は驚異的。

精巧なミニチュアセットと大量のエキストラによる実写映像が見事に組み合わされ、驚くべきビジュアル世界を作り上げている。

モノレール、透明なチューブの中を昇り降りするエレベーター、巨大スクリーン、腕時計型携帯電話、宇宙ロケット(大砲発射型ではあるが)など、今、正に実現しているものばかりが登場する。
逆に、未来世界のファッションは、ローマ帝国風になっているのが興味深い。

戦争が長引くと、文明が衰退し、独裁者が生まれる過程もリアルである。

物語はやがて、人類にとって「進歩」は是か否かという命題に突き当たる。

全体としては、生真面目で理想論的な展開になっており、その啓蒙的内容に多少の違和感を感じないではないが、数十年に及ぶ歴史物語は見ごたえ十分というしかない。
登場するメカニックの数々は、レトロフューチャーそのもののカッコ良さ。

ラスト、キャバルの子孫に当たる人物のセリフ、「人類に休息はない。例え、全宇宙の神秘を征服したとしても、それはスタート地点に立ったに過ぎない。全宇宙(を探究し尽くす)か、それとも無か?」というメッセージの気迫はすごい。

SFファン、特撮ファン必見の古典的名作である。