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十三の眼

1947年、大映、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

戦後、GHQによって禁止されていたチャンバラ映画に変わって、片岡千恵蔵のキャラクターに合わせて作られた現代劇ヒーロー、多羅尾伴内を主人公とした探偵活劇の第二弾。

このシリーズは、大映で4本作られた後、東映で制作される事になる。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

深夜、別件で張り込みをしていた、松川、溝辺の両刑事が、何者かに殺される事件が発生する。

両者の警察葬に、一人の風采の上がらぬ男が焼香にやって来る。
多羅尾伴内(片岡千恵蔵)という弁護士であった。

その後、警察の科研に、京南大学の小岩井博士の教室で犯罪学を学んでいる小村という男(片岡千恵蔵)が訪れて来る。
彼は研究の参考の為にと称して、事件の詳細を係員から聞き出して行く。

注目すべきは、松川刑事が、死ぬ間際に「××デパート」というダイイングメッセージを地面に書き残していたという話であった。「××」の部分はうっかり捜査員に踏み消されてしまい判読できなかったという。

小村=多羅尾=藤村大造は、帰宅後、自宅で松川の遺影に向って祈っていた。

実は、藤村はかつて「怪盗紳士」として全国を騒がせていたのだが、松川の尽力により、今は「正義と真実の人」として更生したという過去があるため、何とか、独力で松川殺害の犯人を探し出そうとしていたのだったが、「デパート」の謎を解くに至っていなかった。

しかし、その直後、故人への祈りが通じたのか、藤村は新聞の広告文字から、ダイイングメッセージの文句を「歓楽のデパート」であると発見する。

その後、「歓楽のデパート」と銘打たれた6階建てのビル「ユニオンガーデン」に、眼帯をした無骨な男(片岡千恵蔵)が現れ、あれこれホステスにビル内の事情を聞きはじめる。

折から、店内に現れた流しの歌手ルリ子(奈良光枝)をめぐり、彼女にちょっかいを出したチンピラと、それの様子を見た眼帯の男は大立ち回りの喧嘩となる。

その喧嘩が終わり、眼帯の男が立ち去った後、倒されたチンピラの一人、宮崎正吉が殺害されているのが発見され、店内は大騒ぎになる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

この頃はまだ、クライマックスでの「ある時ゃ片目の運転手、またある時は手品好きの紳士…」という、東映版での有名な決め台詞は登場しない。

逆に、最初から藤村大造の正体が観客に明かされているので設定が分かりやすい。

東映版になると、後半まで、タイトルにもなっている多羅尾伴内という変装した冴えない弁護士が活躍するのが、まず観ていてピンと来ないし、最後の最後で「正義と真実の人、藤村大造だ!」と正体を明かされても、事情が良く分からない観客としては「ところで、藤村大造って一体何者?」と思ってしまう。

本作を観ると、はじめて主人公たる「藤村大造」の正体が理解できる。(ちなみに、本作のタイトルに「多羅尾伴内」の文字はない。役名の所にも、「藤村大造-片岡千恵蔵」としか出てこない)

要するに「ルパン」の日本版という事なのだ。
探偵役がやたらと変装をしまくるアイデアは、当時の他の探偵もの(金田一シリーズ)とか、後のテレビヒーロー「七色仮面」などに受け継がれる事になる。

本作は、モノクロ作品という事もあり、全体的に地味目の通俗探偵ものという感じである。

手足の短い(失礼!)御大(片岡千恵蔵)が、懸命に殴り合いのアクションを披露するシーンもあるが、正直、かっこいいとはいいがたい。

全編、御都合主義丸出しとはいえ、でっぷり太っている、後の東映版より、まだいくらかほっそりとして、声にも艶っぽさが残っている御大の魅力は、こちらの大映版の方が伝わって来るように思える。

特に、「無限の札束に、十重二十重と囲まれて暮している寂しい男…」なる、嫌み丸出しのセリフを吐く手品好きの富豪紳士、押川広吉に扮した御大の姿は楽しい。

ホステスたちと優雅にダンスに興じ、「ユニオンガーデン」の秘密の部屋で行われているカジノのルーレットでは、何度も続けざまに勝ってしまう御大…、あんたはジェームズ・ボンドか!(笑)

ウクレレを弾きながら唄う流し役の奈良光枝は、コロンビア所属の歌手だった人らしい。
本作では、単なるチョイ役ではない重要な役所を演じている。