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ロスト・イン・ラ・マンチャ

「バロン」撮影時の不運、公開後の酷評にもめげず、長年暖めてきた企画である「ドン・キホーテ」を題材にした新作を実現しようとした監督テリー・ギリアムが、信じられないような不運に見舞われ続け、とうとう、制作断念までに至る様子を、メイキング風にまとめた作品。

ギリアム自身が描く絵コンテの様子や、それを元にしたようなアニメイメージが挿入されるので、何やら、夢と現実が交差しているような雰囲気を醸し出している前半部分が、まず興味深い。

後半になると、正に「呪われた企画」という言葉が現実味を持つかのような、悪夢のような困難が次々と映されて行くので、その非現実的な現実そのものの面白さで観せられてしまう。
正に「現実は小説より奇なり」を、実践したかのような内容になっている。

映画作りにおいて、どんなに周到に準備を怠りなく進めていても、いざ、撮影現場に行くと、必ずいくつもの難題が持ち上がるという話を何かで読んだ事があるが、この作品は、それが本当の事である事を、目の当たりにしてくれる。

まずは、準備段階では当然のごとく資金難。
アメリカで撮る事は不可能で、結局、ヨーロッパで撮る事になるが、俳優もスタッフも、いくつもの国に分かれていてバラバラの状態。 一同が顔をそろえる事すら困難な状況。
ヨーロッパでハリウッド映画を作るのは不可能だという、周囲からの声を聞かず、夢にまい進するギリアム。

そのギリアム自身の表面上の陽気さが、逆に後半の悲劇性を強調して来る。

ロケ現場に行ってみれば、轟音を立てて縦横無尽に飛び回るF-16戦闘機、それまで晴天だったのが、いきなり豪雨で、現場は洪水状態になり滅茶滅茶。

おまけに、監督が何年もかかって選定した肝心の主役俳優は急病で、満足に馬に乗るもできず、医者の診断では、いつ復帰できるのかさえ分からない。

見る見るスタッフ達の志気は下がり、とうとう、ギリアム自身も何のイメージも涌かないような無気力状態に陥ってしまう。

正に「魔に見入られた」というしかないような状態である。

しかし、冷静に観て行くと、おそらく、この作品に描かれているトラブルの内、大半は、大なり小なり、どこの現場でも起こっている事と想像される。

エキストラの訓練不足、動物のトレーニング不足、天候不純…、こういう部分は、映画撮影において「日常茶飯事」の出来事であろう。

軍隊の訓練場であるロケ地に戦闘機が飛び回っている事も、きちんと下調べしておけば事前に分かっていた事だと思えるし、俳優の急病というのも、決して、あり得ない出来事ではない。

要するに、ギリギリの予算、準備不足、見切り発車的な行動が悲劇を招いているのである。

しかし、それを承知で作っているのが、大半の映画製作者たちであろう。

ラスト近く、助監督がいっているように、「取りあえず、撮影を始めてしまえば、いつかは撮り終えている」事例も多いのだろう。

時には、それがうまく行かない事だってあるという事なのだ。

つまり、このギリアムだけが、特殊な例ではないはずだ。

トラブル発生後、保険会社や、完成保証人なる役目の人物が、互いに金の処理をめぐって対決しているというのも、ドロドロした現実感だけが残されたようで興味深い。

頑張れ、ギリアム!くじけるな!…と、無責任にも応援したくなって来る。