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愛情の決算

1956年、東宝、今日出海「この十年」原作、井手俊郎脚本、佐分利信監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

港近くの保管会社に勤める楢崎(佐分利信)は、融通が効かず、客扱いが下手、何をやっても要領が悪い。
上役達もそんな彼を持て余している様子。

ある日、楢崎は、会社から自宅に電話をするが、出てきたのは息子の弘(杉山準)だけであった。
今日は弘の誕生日という事で、彼を外での食事に誘い出すが、レストランで食事後、弘は外を歩いている母親の勝子(原節子)を偶然発見、思わず声をかけようとするが、彼女が男連れであるのを見て取った楢崎は、それを制止して帰宅する。

夜、帰宅した勝子に、無邪気に銀座で見かけたと弘が告げると、彼女の顔色が変わる。
弘を部屋へ遠ざけた勝子は、決意したかのように、夫の楢崎に「自分達の結婚生活は間違いだった」と言い出す。

戦争中、軍曹として部隊を率いていた楢崎は、同じ部隊にいた大平(三船敏郎)、武内(小林桂樹)、吉野(千葉一郎)、東郷(堺左千夫)、木原(田中春男)らと同様、戦地で亡くなった部下の田口(内田良平)の妻である勝子と幼い遺児の弘を、戦後も何かと見舞っていた。

その後、勝子と結婚した楢崎は、家と仕事を失って田舎から上京してきた吉野から、しばらく同居させてくれと依頼され、生来の優柔不断さが災いして、その家族まで一緒に同居を許してしまう事になる。

さらに、楢崎は、足を怪我して長期入院、その後、勤めていた出版社まで解雇されてしまう。

吉野一家は1年以上も楢崎邸に居座っており、勝子は、新聞記者になった大平の紹介を得て、とうとう、外へ勤めに出る事になる。

一方、戦友仲間の中で一番成功したのは、朝鮮戦争の特需で儲けた武内であった。
彼は、戦後、知り合った浮浪児の朝子(八千草薫)を養女のように引取って育てていた。

そんな中、職を失って家で燻っていた楢崎は、生きる目的を失ったかのように無気力になり、その後も職に付こうとはせず、無為に碁盤を相手にしては日々を過ごしていた。

そんな楢崎の事を心配して、何かと、勝子の相談相手になっていた大平は、徐々に、彼女に愛情を感じはじめる…。

現在から10年前に回想、そして、それが最初のシーンに繋がって来るという構成になっている。

戦後の風俗の変遷が、それとなく背景に織り込まれ、戦後史としても観る事ができるようになっている。

働き盛りの時期を戦争に奪われ、戦後、すっかり目標を見失ってしまった楢崎の苦悩。
そんな楢崎と結婚し、こちらも大切な何かを失ってしまった事を秘かに悔やむ勝子。
そして、そんな勝子を、自分が新しい生き方へ導こうとする大平。

一見、単純な三角関係のように見えて、実際はもっと複雑な状況がある。

息子の弘の存在である。

彼は、最初はなかなか楢崎になつこうとしなかったが、母親と大平の親密そうな姿を盗み見てしまった事から、勝子への不信感をつのらせるようになり、さらに、何をやっても怒るという事すらしない無気力な楢崎に、ある日、突然「お父さん!」と抱きつくのだった。

つまり、勝子は女として、大平と新しい人生を踏み出そうと決心するのだが、自分に同行してくれると思い込んでいた弘までも、すでに、心は楢崎の方へ移っていた事実を知る事になる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

物語は、この楢崎親子の人間関係を中心に、武内と朝子の関係、さらに、他の戦友仲間たちの流転の人生も平行して描いていく。

かつては、隊長と部下の関係だった楢崎と大平が、戦後、まったく逆の立場のようになってしまう皮肉。

戦争は終わったはずなのに、また「警察予備隊」から「自衛隊」が生まれる様子を見ていた楢崎が、昔、警官だったものの、戦後は何をしても成功しない木原に向い、「いいものは、皆、昔に戻る」と呟くシーンなどが興味深い。

彼らにとって、警察や軍隊以外の生き方は、皆適合できない「悪いもの」といいたいのだろう。

ここに、彼らの悲劇があり、そんな彼が同情から結婚してしまった勝子の悲劇がある。

真面目な作品である事は分かるが、正直な所、地味そのものの心理ドラマ。
どちらかというと、女性好みの作品かも知れない。