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座頭市千両首

1964年、大映京都、子母沢寛原作、浅井昭三郎+太田昭知脚本、池広一夫監督作品、

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

女馬子(坪内ミキ子)が引く馬に乗った市(勝新太郎)は、「もうすぐ板倉村か?」と尋ねる。

続けて市が「吉蔵と言う人を知っているか」と言うのを聞いた馬子は、「一昨年死んだ」と教えながら、その目が鋭くなる。

「知っている、その墓参りに行くのだ」と市が答える。

天保13年2月13日…、墓の刻まれた吉蔵の命日を指先で確認する市は、当時を回想していた。

笹川と伊予香の喧嘩から逃げ出して来た吉蔵は、そこにいた市に斬り掛かり、逆に自己防衛のため仕込みを抜いた市から斬り殺され、今際の際に上州の吉蔵と言う名前を聞くだけ聞き取る事が出来たのだった。

その墓参りを終えた市は、村人たちが太鼓を叩き八木節を唄っている所に通りかかる。

誘われるまま、酒を振舞われる事になった市は、近在の18ケ所村から、ようやく上納金の千両を集め終わった祝いをやっているのだと聞かされる。

気分が良くなった市は、自分にも太鼓を叩かせてくれと願い出る。

翌日、その上納金を運ぶ農民たちの列を、峠で待ち受ける三人の浪人たちがいた。

鞭を操る仙場十四郎(城健三朗)、他二名(伊達三郎、天王寺虎之助)だった。

彼らは、上納金を乗せた馬と護衛の農民たちが近づくと、やにわに襲いかかる。

さらに、別の方向からヤクザ風の男たちも三人駆け付け、上納金を鞍に縛った紐を斬るが、はずみで、その上納金の箱が崖下に転がり落ちてしまう。

急いで、降りて行ったヤクザたちだったが、気がつくと、その上納金の箱の上に腰掛けて、煙草を吸っている男がいるではないか。

それは市だった。

刀を持って近づいて行ったヤクザたちの内一人は、たちまちその市に斬り殺されてしまう。

その様子を、女馬子が近くから観ていた。

やがて、上納金が強奪された知らせが戻って来た二人の農民から村に知らされ、庄屋の家に集まった農民たちは、情報を集めはじめる。

襲って来た三人は忠治の子分と名乗っていたと言うが、農民の味方である忠治の仲間がそんな事をするはずがないと疑問の声が上がる。

さんな中、女馬子が、千両箱に座頭が座っていたと報告すると、その後、近くの酒場で飲んでいた座頭市が見つけられ、農民たちから袋叩きにあう。

市が必死に、自分は何も知らないと弁明しても、いきり立った農民たちに聞く耳を持った者は一人もいなかった。

国定忠治の子分だと言う話も聞いた市は、そんなはずはないので、自分が直接、忠治に会って事情を聞きに行くと言うと、逃げるのだろうと押さえられる。

しかし、市はひるまず、逃げも隠れもしないし、必ず自分と忠治親分の無実も暴いてみせると言い切って、その場を去って行く。

その様子を、興味深げに聞いている女客がいた。

一方、代官所では、上納金を盗まれたと報告に来ていた庄屋を代官松井軍太夫が怒鳴り付けていた。

そんな話は信じられないので、10日以内にもう一度、金を持って来いと言う。

市は、関所を避け裏道を急いでいたが、その後を追って来たのは、先程、飲み屋で話を聞いていた女お吟(長谷川待子)だった。

裏街道を歩いている所を見ると、何かあるね?とからんで来た女に、自分は目が見えないので、裏も表も分からないが、あなたは目が見えるのにこんな所を歩いていると言う事は、お尋ね者だね?と逆に切り返す市。

とある湯治場に着いたお吟は、風呂に入りに行くと、市がお湯の中に隠れていた。

女は、この先は、赤城山への登り口に当る溝呂木だが、そこに行くのかと探りを入れて来るが、市はいつものように、自分は目が見えないので、ここがどこなのかも分からないととぼけるのだった。

風呂から上がったお吟は、何故かその場に来ていた女馬子と何事かを話し合っていた。

国定忠治が立てこもっていた赤城山では、食料調達に向った弥八らが戻って来て、日光の円蔵(石黒達也)に頼みに行った相手からの手紙を渡していた。

それをざっと読んだ円蔵は、小屋から出て来た忠治(島田正吾)に気づくと、そっと薪の中に入れて燃やしてしまう。

その様子に気づいた忠治は、俺に読まれては困る手紙だったようだなと呟くと、米一升も寄越さないような男の事は忘れてくれと円蔵が無念そうに答える。

そこへ戻って来た弥太と千六の姿を観た忠治は、一緒に降りたはずの寛治はどうしたと聞くと、ひょんな事から死んだと言う。

一方、独り山を登っていた市は、仕掛けられていた警戒用の鳴子にひっかりそうになり、慌てて紐を押さえ付ける。

お吟はと言えば、役人から十手をもらったと自慢している紋次の所にやって来て、吉蔵を殺したと言う市の事を報告していた。

しかし、紋次にとって、そんな目の不自由な按摩の事等眼中になく、今や、関八州で羽振りが良いと言えば、大前田の英五郎だけになったと、自分の勢力が伸ばせるチャンスが来た事を喜んでいた。

ようやく、忠治の元にやって来た市だったが、すでに子分の一人をその市から殺されたと聞かされていた忠治は、何故殺したと問いつめる。

しかし、市はそれには答えず、農民たちから奪った千両箱を帰してくれと頼む。

それを聞いていた弥太と千六は、耐えきれず忠治に詫びながら、でも取っちゃいないと最後の弁明をする。

事情を察し、一旦は二人に刀を振り上げた忠治だったが、二人とも、今日限りで盃を返すから山を降りろと命じた後、市に自らの刀を差し出し、お前の了見の済むようにしてくれと頭を下げる。

しかし、市はその刀を押し返し、黙って山を降りてくれるのが、一番の農民たちへの恩返しだと説得する。

それを聞いていた子分たちも、市の言葉は正しい、このまま山を降りてくれと全員頭を下げる。

その時、小屋の中で子供の泣き声が聞こえたので、子供がいるのかと市が尋ねると、朝太郎の甥っこだと言う。

取りあえず、行く宛てはあるのかと尋ねると、春日部安兵衛の所へ行こうと思うと円蔵が言うので、それでは、子供は自分が預かって送り届けると市が申し出る。

独り、月に向っていた忠治に近づき別れを告げた市に、忠治は、今夜の事は生涯忘れないと、自分のタバコ入れを渡しながら感謝するのだった。

忠治が山を降りるとの噂を聞き付けた紋次は、直ちに役所に使いを走らせる。

子供を背負った市は、忠治一行とは別に山を降りていたが、又、鳴子の場所に来るが、こんだはひっかからない。

しかし、背負った子供が、きれいだな、あんなに提灯がたくさんと言い出したので、その方向を聞いた市は、このままでは忠治たちが捕まってしまうと感じ、自ら鳴子の紐を引っ張り警報音を山中に鳴らすのだった。

それを聞いた役人たちは、一斉に方向を変え、市の方に向って来る。

子供を降ろした市は、自分と同じように目をつぶっていろと言い聞かすと、迫って来た捕り手たちを次から次えと斬り殺して行く。

一方、ふもとの農家に立ち寄った忠治一行だったが、こちらもたちまち、役人たちに取り囲まれる。

決死の覚悟で斬り掛かって行く子分たちが、皆、親分逃げてくれと叫ぶのを聞きながら、忠治は涙していた。

翌日、その農家に子供を連れてたどり着いた市は、忠治と円蔵、岩鉄の三人だけが逃げ延びたと聞かされていた。

そして、その忠治が、お前に礼を言っていたと聞くと、市は恐縮するのだった。

二足のわらじをはいて忠治を捕まえに来た百々村の紋次が憎いと呟くその農民の言葉を聞いた市は、その名前をしっかり頭に焼きつける。

その頃、千両箱を奪った十四郎は、他の二人と共に、紋次の家に居座っていたが、十四郎だけ厚遇している紋次の態度に、他の二人は不満を募らせていた。

そんな紋次の元に、今、賭場荒らしが来ているとの報告がある。

十四郎と共に見に行ってみると、そこで一人勝ちしていたのは市だった。

その姿を観た十四郎は、丁半よりもっと面白い賭けをやらないかと、いきなり鞭で刀を天井に投げ飛ばす。

天井に跳ね返って、市のすぐ側に突き刺さった刀をゆっくり手で障りながら刃先に突き刺さった一文銭が、見事に真っ二つに斬れているのを確認した市は、自分も同じように一文銭を斬れば良いんですねと念を押す。

互いに掛け金を出し合うが、紋次も金を出すと言うので、結局、両者35両づつの掛け金となる。

十四郎は、前と同じように刀を天井に突き刺すと、それにはまっていた一文銭が、ちりちりと音を立てながら落ちて来る。

その音に耳をすませていた市は、刀から外れ、落ちて来た一文銭を見事に真っ二つに斬ってしまう。

賭けは市の勝ちだった。

それを観た十四郎は愉快そうに笑いながら賭場を出て行くが、心配そうについて来た紋次に、あいつを足留めしておけと命ずるのだった。

紋次の子分から、一つ、女遊びにでも行ってみればと勧められた市が出かけてみると、その女郎屋に浪人の片割れ二人も来ていて荒れていた。

その二人が、自分達も盗んだ千両の内、300両はもらうつもりだなどと声高に話す言葉を聞いた市は、その二人が帰るのを待ち構え、先ほど話していた千両はどこにあると問いつめると、浪人の一人が思わず「代官…」と口走ってしまう。

すると、その礼だと小判を道にばらまいて帰りかける市の姿を観た二人が、意地汚く、その小判を拾いあつめだした次の瞬間、振り返った市が仕込みで斬ってしまうのだった。

翌日、庄屋の家に集まった農民たちは、弥次郎たち数名が代官所に強訴に行ったと知らせに来ていた。

謝りに行こうとしていた庄屋は、そこへやって来た役人たちに、農民たちを扇動したとして連行される。

その頃、代官所では、紋次と代官松井軍太夫が笑いあっていた。

その牢に連れて来られた庄屋は、拷問にかけられていた農民三人を見る事になる。

代官は、紋次に、あの三人の浪人者を何とかしろと迫っていたが、それを陰で聞いていたのか、十四郎が座敷に入って来る。

思わず、刀に手を伸ばしかけた軍太夫だったが、すぐさま十四郎の鞭に絡め取られてしまう。

そんな代官所にやって来た市、代官から呼ばれて来たと門の中に入れてもらうと、番人に金をちらつかせ、近くの小屋の中で気絶させるが、そこに出て来たのが、紋二と十四郎だった。

十四郎は、市の姿を見ると、俺はミミズが大嫌いなので、いつも捕まえるとずたずたに引き裂いてやるのだと言う。

自分とどう言う関係があるんで?と市が聞くと、ミミズも目が見えないのだと答える十四郎。

何時かお前もずたずたにしてやると十四郎が言う中、呼子を吹いて役人たちを集める紋次。

しかし、何故か十四郎は、鞭を振るって、役人たちを遠ざけ、その場から市を帰してやるのだった。

その後、軍太夫は、農民3人と庄屋は、明朝、四文字岳で処刑しろと命じるていた。

その知らせを知った農民たちは、代官をやっつけろといきり立つが、そこにやって来た市の姿を見ると、市を吊るし上げはじめる。

何とか、彼らをなだめようとした市に向い、差別の言葉を投げかける農民たち。

むっとした市がその場を立ち去ると、後を追って来たのは、女馬子だった。

市に向い、あの人たちの事を怒らないでくれ、もう千両作れって事は、私たちに死ねと言う事なのだからと謝る。

市は、そんな女馬子に、村はずれの常夜灯の所で待っていてくれと言い残して去って行く。

翌朝、代官所を出発した籐丸籠に乗せられた4人の農民の前後には、前に4人、後ろに4人も鉄砲隊がついており、とても、農民たちが適う相手ではない事が分かる。

その籐丸籠の列に、途中の小屋の陰から、さり気なく加わった市は、たちどころに役人たちを全員斬り殺してしまう。

仲間を取り戻した農民たちは、この事を江戸の奉行に訴えでようと言い出す。

その頃、代官所の軍太夫の部屋では、仲間割れが起こっており、部屋に隠してあった千両箱を持ち出そうとする紋次が、軍太夫から斬り殺されていた。

さらに、その千両箱を表に持ち出そうとした軍太夫は、そこで待っていた市からあっという間に斬り殺されてしまう。

そして、千両箱を持って帰ろうとする市の前に現れたのは十四郎だった。

十四郎は、金には興味がないと言いながら、菩提樹ヶ原で待っていると言い残し去って行く。

常夜灯の所で待っていた女馬子に、持って来た千両箱を託した市は、別に、吉蔵の墓代として、自分の金を渡す。

女馬子は、皆喜ぶ顔を見て行ってくれ、又、八木節を一緒に唄いに行こうと誘うが、喜ぶ顔を見るのは無理だが、八木節が始まる頃には戻って来ると言い残して、市は去って行く。

菩提樹ヶ原で待っていた市は、馬で駆け寄って来る十四郎から投げられた鞭に身体を縛られ、そのまま引きずって行かれる。

何とか、その鞭を振りほどき、仕込みづえを落とした場所に走り戻る市だったが、戻って来た十四郎から徹底的に鞭で顔を殴りつけられる。

ようやく、落ちていた仕込みを手探りで探し出した市は、鞭を切り取り、十四郎を馬から落とす。

遠くから、農民たちが唄う八木節が聞こえて来る中、市は、向って来た十四郎を斬る。

そして、市は、八木節の聞こえる方へ歩み去るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

国定忠治(島田正吾)との出会い。
板割の浅太郎の幼い甥っ子を預かった市の、大勢の追っ手をかいくぐっての山から脱出。
そして、地元の岡っ引きに雇われた用心棒の一人、仙場十四郎(城健三朗=若山富三郎)との兄弟対決…と、随所に見せ場が用意されている。

宮川一夫の手によるキャメラもあって、画面構成にゆるぎはない。

お色気あり、ユーモアあり、賭場での居合いの妙技の披露…と、相変わらずサービス満点。

若山演ずる十四郎は、インディ・ジョーンズみたいに鞭を自在に操るキャラクターとして描かれている。
クライマックスは、彼が馬に跨がって、市を鞭で翻弄するという、斬新なアクションが用意されている。

話の展開自体は案外平凡なものだが、話の膨らませ方が巧みで、最後まで飽きさせない。

誤解された市が、一度は酒宴の場で心を開きあったと思っていた農民達から心無い差別の罵声を浴びせられ、一瞬表情をこわばらせるシーンが哀しく心に残る。

結局、アウトローである市に、心を許せる友達などいないのである。

ラスト、遠くに農民達の八木節の音を聞きながら、立ち去る市の厳しい素顔…、見事なエンディングである。