TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

座頭市血笑旅

1964年、大映京都、子母沢寛原作、星川清司+吉田哲郎+松村正温脚本、三隅研次監督作品。

シリーズ8作目。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

按摩達の集団に紛れて、文殊の和平次(石黒達也)一味らの捜索を振り切った市(勝新太郎)は、帰り道なので安くするからと迫る空駕篭に乗る事になる。

ところが、乗ってしばらく行く内に、持病で苦しむ赤ん坊連れの旅の女と遭遇。
市は、自分の代わりに、その親子を駕篭に乗せてやる。

ところが、その駕篭に市が乗り込むのを見ていて、先回りしていた和平次一味に、その駕篭は襲撃され、母親は一命を落としてしまう。

逃げてきた駕篭かきから事情を聞かされた市は、自分の取った行動が、結果的に母親を殺してしまったのだと悔やみ、生き残った乳飲み子を自分が父親の元へ届ける事にする…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

目が見えないだけでハンデなのに、手のかかる赤ん坊を連れているという事が、さらに市のハンデとなって、その後の展開をサスペンスフルにして行く。

実は、この回は、シリーズお馴染みの強力なライバル的侍が登場しない。
襲って来るのは、チンピラやくざ達ばかりである。

つまり、本作の面白さは、赤ん坊を連れて、降り掛かる火の粉を払わねばならない市のピンチの連続と、その市が赤ん坊にどんどん感情移入して行く様の微笑ましさにある。

本当に、子供好きな市の人柄の良さが、後半になるにつれ、観客の胸を締め付ける事になる。
ヤクザで身体的ハンデを持つ市と赤ん坊は、いつかは別れなければならない事を知っているからである。

市は、途中で、訳ありげな女、お香(高千穂ひづる)と出会い、やがて、一緒に旅をするようになる。
お香も又、赤ん坊に感情移入して行くようになる。

ここに至って、市とお香の間に、子供の事をめぐる小さな諍いが起こったりして、これ又微笑ましくも哀れである。
お香とて、赤ん坊を育てられるような、真っ当な暮らしをしている訳ではないからである。

一見、平凡な着想の物語なのだが、全編、アイデアが詰まっており、飽きさせない。

赤ん坊を抱いたまま博打をする市の姿は、サスペンスフルであると同時に滑稽でもある。

一晩雇った遊女に赤ん坊の世話を頼みながらも、相手が信用できずに、なかなか寝付かれない市の子煩悩振りは、単なるユーモア表現という段階を越えて、観るものの胸に食い込んで来る。

ラスト、三たび再会した按摩集団に声をかけず、ひっそり隠れるように彼らをやり過ごす市の心情の複雑さ。

市の人間性、その心根の奥に潜む限り無い寂寥の念に迫った、シリーズ屈指の名作である事は間違いない。