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巨人伝

1938年、東宝映画、ビクトル・ユーゴー「レ・ミゼラブル」原作、伊丹万作脚本+演出作品。

明治初期の頃、九州の、とある貧しかった町を、4、5年で復興させた慈善家としての功績を讃えられ、今は大沼町町長になっている大沼氏(大河内伝次郎)の銅像が建立され、「功労謝恩会」なる催し物が開かれる事になる。

しかし、民衆の中には、大沼氏の氏素性がはっきりしない事を怪しむものも大勢いた。

そんな町の警察署に、ちょうど赴任してきたのが、巡査部長の曽我部弥次郎(丸山定夫)であった。

彼は、臨席した謝恩会で、町長の大沼を初めて見るのだが、その顔に見覚えがあった。

曽我部は、かつては灯籠島という流刑の地で見張りの同心をしており、そこで、仲間の同心の一人を殺害して脱走した『まんりきの三平』なる罪人を思い出したのである。

その曽我部と大沼が一緒に会場から帰る道すがら、火事に遭遇する。
燃えさかる二階屋に閉じ込められた男が一人。
しかし、窓には鉄格子がはまっていたため、野次馬達は誰も手が出せない。

それを見た曽我部巡査部長は、隣にいた大沼氏に「自分は一人だけ、あの鉄格子を曲げるくらいの力持ちを知っている」とカマをかける。 『まんりきの三平』の名の由来は、その怪力にあったからである。

その言葉を黙って聞いていた大沼は、意を決したように、衆人の面前で梯子を登り、見事、鉄格子を曲げて、男を救い出すのだった。

後日、何ごともなかったかのように警察署を訪れた大沼は、牢に捕らえ、町長の悪口を叫んでいた病気の女性、お筆(英百合子)に出会う。

聞けば、以前働いていた慈善病院を辞めさせられてからは、身を持ち崩し、今は、幼い一人娘を、鳴門屋という店の夫婦(小杉義男、清川虹子)に預けているという。

彼女の身元引き受け人になり、その身柄を引取った大沼であったが、やがて、彼を訪れてきた曽我部から、意外な話を聞かされる。

実は、自分は、あなたの事を、罪人の三平だと信じ告訴したが、熊本で、本物の三平が捕まったため、人違いだった事が判明したので、謝罪しに来たという。

翌日、三平に瓜二つで、少し頭の弱い三吉(大河内伝次郎-二役)が、裁判所で有罪に決せられようとしていた瞬間、傍聴席にいた大沼氏が立ち上がり、「自分が本当の三平だ」と言い出す。

やがて、大沼氏こと三平は曽我部に捕縛され、護送中に、乗せられていた船が遭難、三平は溺死したと報じられるのだった。

それから月日が過ぎ、徹底的に鳴門屋夫婦から虐め抜かれていた千代(片桐日名子)の元に、一人の温厚そうなおじさんが現れ、強欲な夫婦から彼女を引取る事になる…。

物語後半、成長した千代を演じるのは、まだ、ぽちゃりとした幼な顔時代の原節子である。

話はさらに、ますます極悪人化した鳴門屋夫婦と、その成長した娘、お国(堤真佐子)と弟の五郎(今泉啓)、そのお国が思いを寄せながらも、本人は、家庭教師として招かれた家の娘、千代に恋する英語教師の清家龍馬(佐山亮)などが絡み、登場人物達は全員、西南戦争の荒海に巻き込まれて行く。

長大な原作を、良く日本風に翻案していると思う。

クライマックスになる西南戦争のシーンも本格的に作られており、スペクタクルとしても見ごたえ十分。

原節子も可憐ならば、主役を演じる大河内伝次郎も貫禄十分である。

2時間以上に及ぶ長編であるが、伊丹万作の力量を感じさせる見事な作品といえよう。