TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

本陣殺人事件

1975年、たかばやしよういちプロ+京都映像+ATG、横溝正史原作、高林陽一脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ピンク地に白い水玉模様の衣装を付けた可愛い人形をぶら下げ、とある村を訪れた金田一耕介(中尾彬)が、葬列に遭遇する所から物語は始まる。

亡くなった女性、一柳鈴子(高沢順子)は、金田一が、これから訪ねようとしていた人物であった。

金田一は、彼女の遺影を見ながら、一年前にこの地方の旧家、一柳の屋敷で、当主の婚礼の夜に起こった不思議な事件を回想して行く…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

有名な横溝正史原作ミステリーの映画化作品である。

作品そのものは、時代を現代(70年代)に置き換えている他は、割と原作に忠実に作られ、出来もまずまず…だとは思うだが、何せ、低予算で作られていたATG作品であるだけに、華のあるスターが一人も出ておらず、基本的に動きのないセリフ中心のドラマである事も相まって『地味』そのものの印象がある。

角川が仕掛けた「横溝ブーム」到来の直前に作られた事もあって、その後作られたテレビ作品などよりも地味かも知れない。

一応、当時から有名だった役者といえば、一柳賢蔵を演じる田村高廣くらいだろうか?

「三本指の男」を演じる常田富士男はともかく、金田一を呼び寄せる久保銀蔵役の加賀邦男、久保克子役の水原ゆう紀、一柳三郎役の新田章…、重要な役所を演じる俳優達は、どれも「顔はどこかで観たような気はするけど、名前は出て来ない」…というような人ばかり。

主役の中尾彬や磯川警部を演じる東野孝彦(後の英心)にしても、当時は無名の新人に近く、ブーム当時、テレビなどでも何度か放映されたにもかかわらず、同時代の他の映画化作品に比べて、本作の印象が薄いのもやむを得ないかも知れない。

キラキラと輝く水しぶきを背景に物悲しい音楽(担当-大林宣彦)がかぶさるタイトルが、物語を暗示する。

少し知的ハンデのある少女、鈴子の純真さが、観ていて何とも物悲しい。

可愛がっていた猫のタマの死から、近親者達の死を経て、何ごとも悩みがなかったかのような無垢な彼女の心にも『死』という概念がぼんやりと形作られて行く。

探偵役の金田一には、事件そのものの真相よりも、そちらの悲劇性の方が痛ましかったはずだ。

彼女の純真さと、兄、賢蔵の潔癖性、その底辺はどこかで繋がっているのである。

その「血」の悲劇性が、観るものにも迫って来る。

良く、横溝ミステリーの本質を捕らえているといえよう。

何やら70年代フォークシンガーを連想させるような、カールがかったロン毛にジーンズ姿の中尾金田一は、後年の金田一を見慣れた目には異質に感じるかも知れないが、おかま帽らしきものもちゃんと被っているし、頭をかく癖も再現している。

着物に袴姿の金田一が登場するのは、石坂浩二以降である。

それまでの歴代金田一耕介は、皆、ダンディな背広姿であり、そういう意味では、中尾彬の金田一スタイルは、他に例のない、オリジナリティ溢れる独自のものと言えるかも知れない。

若々しく、まだ可愛かった頃の中尾彬の名探偵振りに、この作品で出会って欲しい。