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兵隊やくざ

1965年、大映東京、有馬頼義「貴三郎一代」原作、菊島隆三脚本、増村保造監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和18年、ソ連近くの満州、関東軍の歩兵部隊での話。

軍隊生活が大嫌いで、大学出ながら出世の試験をわざと落ちて、来年3月の除隊のみを楽しみに待ち受けていた有田上等兵(田村高廣)に、今度来る初年兵の問題児を一人任せるという上官達からの命令が下る。

元やくざであったという大宮貴三郎(勝新太郎)は、部隊に到着直後から、その存在感を発揮する事になる。
上官の鉄拳制裁など何のその、別の砲兵隊とも風呂場で大げんか。

その仕返しにやってきた砲兵隊の上官から、拷問に近い仕打ちを受けている大宮を側で観ていた有田は、あらかじめ調べ挙げておいた相手の素性を逆手に取り、大宮に反撃を許すのだった。

有田と大宮は、こうした部隊内でのいくつかの事件を通して、互いの人間性に惚れ込んで行く。

やがて1年が過ぎ、歩兵部隊に新しい初年兵が入隊して来るのだが、炊事班からの理不尽ないじめに耐えかねた兵隊が一人脱走した後、自殺してしまう。

大宮は、その復讐をするために、炊事班に乗り込んで行く。

そんな大宮を持て余していた部隊長らは、敗色濃厚になった頃、大宮を南方の前線に送ろうとする。
有田の除隊も、事実上、すでにかなわぬものとなっていた。

二人の運命はいかに…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

暴力が全てを制する理不尽な軍隊という組織、全ての人間を不幸にする戦争というものに対する批判精神を、とんでもないキャラクターを登場させる事によって、面白おかしく見せるという事では、松竹の「拝啓天皇陛下様」(1963)などに通じるものがある。

シャバではまともな生活ができない落ちこぼれ人間が、軍隊の中では生き生きとしだす…という所は、「拝啓〜」での渥美清扮する山田正助も、本作の大宮貴三郎も同じである。

「拝啓〜」で、そんな正助に優しく読み書きを教えるインテリの柿内二等兵(藤山寛美)がいたように、本作では大宮を補佐する上官のインテリ有田が存在する。

しかし、有田はただ親切な人情家というだけではない。彼も又、屈折しているのである。

であるから、「拝啓〜」で、正助と柿内二等兵が時期が来れば別れるのに対し、有田と大宮は別れられない。
彼ら二人は、互いに相手が、自分に足りないものを持っている事を本能的に察知している。
それは、共に、厳しい現実を生き抜いて行くために不可欠なものだという事も…。

そういう理屈はともかくとして、とりあえず、娯楽映画として、本作は痛快無類である。

頑強な肉体と精神を持つ大宮のキャラクターは、超人的でさえあり、そのデタラメ振りには溜飲が下がる。

大宮が「鉄人28号」や「ジャイアントロボ」であり、有田がそれを操縦する少年みたいなものである。

「やれ!大宮!」と有田がいえば、大宮はにやりと笑ってそうするし、「止めろ!大宮!」と命ぜれば、おとなしくそれに従う。そのコンビネーションの面白さ!

しかし、大宮は単なる知能のないロボットではない。
ある意味で、インテリの有田よりも、したたかで狡猾な知恵を持っているのである。

この二人が、戦争という過酷な現実にどう立ち向かって行くか…。
見始めたら、止められないほどの魅力を持ったシリーズである。