1957年、日活、泉鏡花「高野聖」原作、八住利雄脚本、滝沢英輔監督作品。
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1千年の間、女人禁制だった高野山が、政府によって解禁されたのは明治5年の事であった。
この物語は、その処遇をめぐり、寺で若手の僧たちが息巻く中、意見を求められた老師(滝沢修)が、自分が若い頃に出会い、今でも忘れがたい一人の女人との不思議な出合いを語り出す…いう形で始まる。
信濃の山を越え、善光寺へ向おうとしていた24歳当時の老師、宗朝(葉山良二)は、山中で、女を手込めにしようとしていた薬売り(河野秋武)と出会う。
女を逃したその薬売りは近道になる旧道を、宗朝は新道を選び、一旦は別れるが、旧道は危険だという話を、途中で出会った男(西村晃)から聞いた宗朝は、おせっかいとは知りながら、元来た道を戻り、旧道に入って、薬売りに危険を知らせようと後を追い掛ける。
しかし、薬売りには会えぬまま、道に迷い、宗朝は深山幽谷の中で山ヒルに襲われる。
ほうほうの態で山ヒルの森から抜け出した宗朝が目にしたものは、人が住むらしい一軒家であった。
中に入り込んでみると、知的ハンデのあるらしき無気味な小男がおり、さらに世にも希なる美女(月丘夢路)が姿を現す。
聞くと、宿泊ができる場所までは、後八里も山道を歩かねばならぬという。
疲れ切っていた宗朝は、伏して女に一夜の宿泊を願い出る。
美しい女は、不可思議なものを見ても、何も尋ねない事を条件に、宗朝を泊める事になるのだが…。
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魔性の女にのめり込んで行く若き僧の苦悩と悦楽が描かれて行く。
同時に、この女性の方も、単なる妖怪、魔女の類いではなく、哀しい運命に囚われている一人の人間だという事が判明して行き、観るものに哀れを感じさせる。
日活スコープの大きな画面にカラーで映し出される森の様子が美しい。
ロケのみならず、女人の家を中心に、森の中の様子がしっかりとしたセットで作られており、それが一種独特の幻想空間を生み出している。
後年、篠田正浩監督で作られた、同じ泉鏡花原作「夜叉ケ池」(1979)に雰囲気は近いが、特撮のようなものを使ってないだけ、ちゃちさがなく、今でも十分大人の観賞に耐える出来映えになっている。
月丘夢路の醸し出す怪し気な大人の色気が魅力的。
戦前の日活は時代劇で知られていたらしいが、戦後、復活した日活での時代劇は珍しいように思える。
堂々たる風格があり、どことなく大映時代劇を彷彿とさせる雰囲気もある。
どちらかといえば地味な幻想ものだけに、万人好みというような内容ではないし、今の感覚で観ると冗漫に感じたり、物足りなさを感じたりする部分がない訳でもないが、ファンタジー好きには一見の価値はある力作だと思う。
