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あこがれ

1966年、東宝、木下恵介原作、山田太一脚本、恩地日出夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

3、4歳くらいの幼女が労務者風の父親に施設に連れて来られる所から物語は始まる。

幼女の名は西沢信子(林寛子)、帰ろうとする父親(小沢昭一)にしがみつく。

「今日から、ここがあなたのお家なのよ」と優しく諭す水原先生(新珠三千代)に、ワッと泣きつく信子。

しかし、信子は、何とも手の付けられない少女であった。

唯一の肉親である父親からの愛情も受けられず、すっかり心が荒みきっていたのである。

冒頭部分では、その信子を、何とか立ち直らせようとする水原先生の苦闘と、そんな孤独な信子に話し掛ける、同じ施設の少年一郎との出会いが描かれる。

時は移り、23才に成長した一郎(田村亮)は、平塚の洋食器店の養子となって、何不自由ない生活を送るようになっていた。

養父(加東大介)、養母(賀原夏子)、養父の姉(沢村貞子)らは、何とか一郎に良い縁談をさせようと、たえず見合い話に花を咲かせている。

絵に描いたような幸せな日々…。

一方、信子(内藤洋子)は、近所のラーメン店の店員をしていたが、たえず金をせびりに来る父親のせいで、何の希望も見出せない毎日を過ごしていた。

大きく運命が開いてしまったかに思えた2人だったが、いまだに友達付き合いは続けている。
やがて、一郎は、そんな信子に、友情以上の感情を抱くようになって行くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

酒井和歌子と並ぶ、往年の東宝の清純派アイドル、内藤洋子(喜多嶋舞の母)の初主演作である。

幸薄い少女の存在を核として、彼女への同情がやがて愛情に変化する青年、その青年の事を心配する養父母と施設の先生、さらに、その青年の実母の登場によって揺れ動く周囲の人間たちの感情が丁寧に描かれている。

内藤洋子は、不遇な境遇にもめげず、必死に生きようとする少女の姿を良く演じきっている。
彼女が汗まみれで黙々と働く健気な姿は美しい。(中でも、ウエイトレス姿はアイドルらしくキュート!)

一郎からの愛情の告白も、彼の養父母が自分の存在を疎ましく感じているらしき事、ダメな父親への複雑な愛情、水原先生からのアドバイスなどとの板挟みになり、素直に受け入れる事ができず、やがて少女は、自らの夢と希望を自分で封じ込めようと決意する。

単純に、若者たち同士の愛情礼讃、ハッピーエンドに終わっていない所が考えさせられる。
かといって、救いのないリアリズムだけの話でもない。

厳しい現実は現実として、それに懸命に対峙しようとする若者たちの姿、それを何とか理解してやろうとする大人たちの姿に焦点が当てられている。

一郎を演ずる田村亮をはじめ、養父を演ずる加東大介、信子のだらしない父親を演ずる小沢昭一、そして、一郎の実母として登場する乙羽信子らも全て好感が持てる。

本作で注目すべき所はもう一つ、信子の幼女時代を演じている林寛子の愛らしさとうまさである。

タイトル部分で彼女の名前に気付かなければ、それが「あの」林寛子の子役時代の姿であるとは分からないのではないだろうか。

意識して観察すると、かろうじて面影が認められるくらいの幼さだが、意志の強そうな眼差しが印象的。

着換えさせようとする水原先生につばを吐きかけたり、暴れまくる「問題児」を良く演じている。

全体的に派手さはないが、登場人物たちの姿がいつまでも心に焼き付くような…そんな作品である。