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鶴八鶴次郎

1938年、東宝映画、川口松太郎原作、成瀬巳喜男脚本+演出作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

三味線弾きのお豊(山田五十鈴)と新内の芸人、次郎(長谷川一夫)は、共に、幼い頃からお豊の母親に芸を仕込まれた義兄妹のような関係だったが、師匠亡き後、共に20才代になった今は、鶴八、鶴次郎という芸名で名人会に呼ばれるまでに成長していた。

会場は連日満員、今や、二人は押しも押されもしない、人気実力両方を兼ね備えた若手のホープになっていたのである。

平素の二人は仲が良いのだが、芸熱心な鶴次郎は、舞台の後、鶴八の三味線の出来にあれこれ注意する癖があった。
鶴八の方も芸人としての自負があるので、それに反発する。

かくして、鶴八と鶴次郎はしょっちゅう、喧嘩別れを繰り返す事になるのであった。

それを心配するのが、鶴次郎の番頭、佐平(藤原鎌足)と、寄席の支配人竹野(三島雅夫)であった。
これまでも何度か仲を取り持ってはきたが、やはり、二人を夫婦にさせてしまうのが一番良いだろうという事になり、仕事の慰労の意味を兼ねて、二人を温泉場に旅立たせる。

その場で、くつろいだ二人は、互いの正直な気持ちを打ち明けあい、結婚を約束する事になる。
鶴次郎は、かねてより気になっていた、松崎(大川平八郎)なる金持ちと鶴八が付き合わないように頼む。

ところが、鶴八は、鶴次郎が自分達の寄席を持ちたいという夢を叶えさせるために、松崎から秘かに資金を借り、それを鶴次郎に話さないでいた。

後日、それを知った鶴次郎は、いつもの短気が出て、鶴八と大げんか。
両者とも我を張り合った結果、結婚話は消滅し、鶴八は松崎の元に嫁いでしまい、一人になった鶴次郎は人気も落ち、ドサ廻りの芸人へと堕ちて行くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

芸人の悲喜劇を描いた芸道ものの映画である。

一応、川口松太郎の小説(第一回直木賞受賞作)が原作であると画面に出て来るが、その原作の母体となっているのは、アメリカ映画「ボレロ」(ウェズリー・ラグルズ監督 1934)であるらしい。
つまり、この作品は、「ボレロ」という外国映画の翻案の映画化という言い方もできよう。

長谷川一夫、山田五十鈴両名とも若々しく、かわいらしい顔つき。
その若さが、物語後半の悲劇を招く訳で、観ていて痛々しい。

互いに性格が悪い訳ではないのである。
ただただひたすら芸人として日々の精進を心掛け、芸熱心なだけなのである。
そのひた向きさが、義兄妹のような二人の関係をぎくしゃくさせてしまう。
心の奥底では互いに憎からず思いあっている若い男女なのに、その気持ちがすれ違ってしまう。
自分達でも、その事に気付かないではない二人だったが、どうしても若さが素直さの邪魔をする。

後半、散々、売れない芸人としての辛酸を舐めつくした鶴次郎に、再び鶴八と一緒に舞台に上がらないかとの誘いが来る。

二人は往年の人気と芸を取り戻し、めでたしめでたし…となるはずが…。

意外なラストが胸を打つ仕掛けになっている。

今の感覚で観ると、芸道ものというジャンル自体馴染みも薄いし、全体的に地味な内容といえなくはないが、じっくり、心に染み入るような佳作になっている。