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その人は昔

1967年、東京映画、松山善三脚本+監督作品。

もともと、音楽担当の船村徹氏が、当時、橋幸夫、西郷輝彦と共に「御三家」として人気のあった舟木一夫の為に作曲した歌謡曲の数々が先にあり、本作は、それをベースに映像が検討されて後から作られた「歌謡映画」というか、もっとはっきりいえば、「アイドルプロモーション映画」である。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

北海道、日高地方の百人浜という漁村が、物語の発端となる。
貧しい農家の生まれの一夫(舟木一夫)は、百人浜で大勢の女性達に混ざり、昆布採りをしている一人の少女、洋子(内藤洋子)を見つける。

彼女は、仕事の後、白馬を連れて海岸を歩いている所で一夫と出会い、互いに心を通わせるようになる。
二人共、貧しい今の生活に絶望しており、どこか遠い所へ夢を探しに行こうと相談しあっていた。

やがて、互いに、両親の反対を押し切り、連れ立って上京する事になる。

一夫は印刷所で働くようになり、洋子はウエイトレスの職を得る。
最初の内は、互いに希望に溢れ、時々会うデートも楽しくてたまらなかったのだが、やがて、少しづつ、二人の心に都会の汚れが染み付いてきて、気持ちが離れはじめていく…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

後年、太田裕美の歌でヒットした「木綿のネッカチーフ」という曲の歌詞にも似た「地方の若者の都会への夢と挫折」の物語で、展開自体は陳腐というしかない。

明朗な青春歌謡から出発したものの、ある時期(1966年日活「絶唱」辺りからか?)以降「バラード調」の歌を主体にし始めた時期の舟木一夫が主演なので、どうしても、話自体も途中から「哀しい物語」に転調していく。

舟木自身も、和風の整った顔だちで、今観ても、丸っきり魅力がないとはいえないのだが、正直、往年の魅力は薄れたように感じる。
それに対し、本作で光っているのは、ヒロインを演ずる内藤洋子の信じられないような愛らしさである。(今観ると、明らかに、内藤洋子の方を主体に撮っているとしか思えない)

冒頭部分、百人浜で白馬と戯れている時に流れる曲が、内藤洋子が歌う伝説の名(迷)曲「白馬のルンナ」で、はっきりいって下手である。
そのあまりの音痴振りに頭を抱えた船村徹氏が、一小節づつ手本のテープを聞かせ、彼女にその通りに繰り返させてレコーディングしたとかいう伝説すらある。

しかし、彼女の愛らしさを観ていると、そんな事はどうでも良くなるというか、かえって魅力的に聞こえてしまうから不思議だ。

特に個人的に、内藤洋子に思い入れがある訳でもないのだが、この作品の彼女を観ると、その魅力に打ちのめされる。
「ローマの休日」に出て来るヘップバーンみたいなものである。
ストーリーとかは二の次という感じ。

戦前の名作「馬」(1941)における高峰秀子とか、「時をかける少女」(1983)における原田知世とか、
世の中には、内容そのものよりも、オーラを放つような主演少女の魅力が全て…というような作品があるが、紛れもなく本作もその一本だと感じる。

公開当時は、人気歌手舟木一夫のために作られた、どちらかといえば平凡なプロモーション映画だったものが、いつの間にか魅力的な「少女映画」に変化してしまった特異な例だと思われる。

アイドル主演の映画というと、何だか学芸会みたいな稚拙な演技を想像する向きもあるかも知れないが、当時、すでに何本もの映画に主演していた舟木の演技はしっかりしているし、黒澤組に鍛えられていた『女優』内藤洋子の演技に微塵のたどたどしさもない。

再評価が待たれる作品ではある。